小説載せる予定が、気がつけば日記の溜まり場。 そんなもんよ。
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歌今抄第三話、前編
2011-11-22-Tue  CATEGORY: 歌今抄(オリジナル合唱部物語)
歌今抄ー。
第三話でやりたい事は二つあるんですが、どちらも終えてません。第三話だけで三部構成になりそうな予感。
或いは今回初めて、漫画が小説を追い抜くかもしれません。おおこわいこわい。

それでは続きから、
歌今抄第三話・前編。

 四月。僕はこの明澄高校に無事入学。入学式その日に合唱部に惹かれ、入部。それ以来初めての合唱にも慣れて行き、練習の成果を披露した五月末、県唱祭……。
 ……くそっ。
 内心、いや声に出していたかもしれない毒素。そんなものを吐き出したところで何の解決にもならない事は誰にだって分かる。でも、それでも。
 昨日の県唱祭での、自分の不甲斐なさを思い出すだけで、僕の喉に苦い味が蘇る。後悔と慙愧と自責の苦い味。吐き出さずにはいられない毒の味。
 今日は日曜。本来は部活の練習はなく、のんびりと家で休んでいれば良い日程ではあるものの、何もしないで待つ事が何よりの毒のように思えたので……初めて自主練習に参加するつもりで現在バス内。
 県唱祭のステージを降りてから、今の今まであの苦い味が喉を去ってくれたためしがない。ただの一瞬ですらない。その嫌な味を払拭する為には、練習するしかないのだ。それも、僕が今まで積み重ねてきたような簡単な練習じゃだめだ。もっと本格的な、実践的な、勝てる演奏が出来る練習……。
 バスを降り、生徒玄関に着いた辺りで思い出す。今日は吹奏学部の発表会があるから音楽室が使えるんだっけか。そっちで練習した方が良いのかな。でも取り敢えず第二講義室に行くのが先か。
 明澄高校では文化部には部室が用意されていないので、特別教室のいずれかを部室代わりに使用している。合唱部の部室と呼べるのは、第二講義室となるわけだ。
 その第二講義室に入ると、先客がいた。ただいま午前八時四十分。既に二三年が全員揃い、一年も数名の顔が見えている状態。全員が個別に練習しているのではなく、発声練習だけ何人かが集まって行っている。
「あれえ、泉君も来たのか。」
 間の抜けた声で迎えてくれたのは、僕と同じ一年生、二十五期の宝屋だった。脱力しきった体勢でうねうねしながら手招きしている。
 ところで宝屋のパートはTen.で、明澄ではテナーと呼ばれている。テノールと呼ぶ合唱団もあるとか。そして僕がBas.でベース。パートが違うので、同期同性と言っても宝屋の実力は聞こえない。
「泉か。丁度良い、今からお前も発声に参加すると良い。」
 横から二十四期、つまり二年のベースの先輩、長辺健馬先輩が声をかけてくれた。僕は健馬先輩の横に並び、軽く脱力と姿勢確認だけを済ませてすぐに練習に加わった。
 発声練習が終わると、各自自分の練習にあてるべく解散となる。ただし音源、つまり正確な音程を教えてくれる器具が人数分ある訳ではないので、交代で使うか他人とともに練習、という形式を取る。さて、僕も音源からあぶれてしまったな。誰かの練習がひと段落つくまで待つか、誰かの練習に加わるか……
「おーい泉。」
 ん?珍しい声に呼ばれた気がした。声の主は、同期Alt.(アルト)の梓唯。自称、女子を守る戦士。勝手に僕の事を女好きだと決めつけて僕を毛嫌いしているはずなのだが。
「梓も自主練習に来ていたのか。」
「うん。今日が初めてだけどね。」
「僕も。昨日の県唱祭に満足行かなくてね。」
「その事なんだけど、泉、昨日の演奏を録音してあるんだよ。」
 へえ。
「お前今来たばかりだし聴いてないだろう?私も途中からしか聞いてないんだよ。部長が持ってるらしいからさ、一緒に聴いてみない?」
 うーん。聴いてもなあ。次に繋がらない気がする。
 悪いところを見つける意味で聴こうと言うなら、正直自分で悪いところは把握しているつもりだし。息が保たなかった事、小手先で歌おうとした事、周りに揃えられなかった事、細かな事になれば分からないけど、今思い出せるだけで六箇所は浮かんで来た。楽譜を見ながら思い出せばもっと思い出せるだろう。
 では良かったところを確認すべく昨日の演奏を聴こうか?それもためらわれる。僕のせいで、良かったところなどなくなっているのだから。
 だから、本当は昨日の演奏には興味がない……というか聴くのが怖かった。しかし、音源がないので今は手持無沙汰。する事がないなら昨日を振り返るのも無駄にはならないかもしれない。
「分かった。あまり益にはならない気がするけどね。」
「そんな事言うなって。私にとっての初舞台だ。お前にとってもそうだろう?記念、記念だよ。」
 初舞台がトラウマになるケースだってあるだろうに。いや、こいつには昨日の演奏がどう感じられていたのだろう。目の前で歯を見せて笑っている女は、自分の実力を遺憾なく発揮できたと言うのだろうか。
 しかし、それは演奏を聴き終えてから訊ねてみるとするか。例の録音のMDを持つと言う部長、二十三期アルトの七星館陽里部長に声をかける。
「そっかー。唯も泉君も最初から聴いてないっけねー。」
 ちなみに部長、がっちり音源を確保していた。ポーターとか言う、ちっこい、いやいや、かなりちっこいキーボードみたいなやつ。音源確保しておいて録音聞かせろと言われるのもなかなか気の毒なような気もするけど仕方ない。悪いのは梓だ。
「丁度良いや。夕季も聴いてないはずだし、夕季に任せよう。おーい夕季!」
 そして、同じく音源をゲットしていた二十四期アルトの上住夕季先輩に僕達を押し付けた。さすが三年生ともなると抜け目ない。呼ばれた夕季先輩も渋々ながらこれに応じる。気の毒で仕方ないけど悪いのは全部僕の横の乱暴女ですから。
「じゃあこの際だからプレイヤーの操作も説明しときますかー。」
 と、親切にも夕季先輩は備品のMDプレイヤーの説明をしてくれた……のは結構なのだが、僕自身MDプレイヤーを理解できていないので「ちくわ耳」状態でしたとさ。んで再生が三角のボタンですか。ああ家にあるビデオデッキと同じだ。DVDプレイヤー?そんな最新機器は我が家には置いてない。ゲーム機やパソコンで見られるんですか。それならいつかパソコン欲しいなぁ。
 などと時代設定の説明になっているようでなってない想像をぶち破って、MDは再生される。
「…………」
 ぼーん。全体的に暗い雰囲気の出だし。歌詞がはっきりとは聞き取れない。僕は歌っている側の人間だから予め歌詞も分かっているけど、歌詞カードも無しにこんな演奏を聴いていた人達は何と思った事か。
 しかし、悪い悪いと思っていたはずの演奏が、意外な展開を見せる。クライマックスにかけての盛り上がり方なんかは僕が(恥ずかしながら、今更)初めて知るような構成に聞こえた。こんな歌だったのかと思い知らされた感じ。
 僕が気にかけていた箇所、少なくとも六箇所、どこもおかしくは聞こえない。だが、これは換言すれば。
(僕の影響力があまりにも小さいって事か……。)
 僕一人失敗したところで何ら影響はないと言うなら、僕は声を出しても出さなくても同じだったと言う事。僕のかつての同級生、憎むべき相手であるあの男は明澄の演奏を評価していたけれど……僕の力が及ばなかったからこそ、明澄の演奏が結果として評価されたのだと受け取る事も出来るのだ。
 しかしそれが事実ならば。
 僕が力をつけて、真の明澄高校合唱部の一員として認められれば、明澄は更なる高みに昇れるって事なんだ。
 思いがけない発見があったり、駄目だと思ったところがやはり駄目だったりと、一喜一憂・悲喜交交な十五分間はいつの間にか拍手の音を迎えていた。
 ステージを降りる際はもう絶望の淵だったので、こんなに拍手をもらえていたのかと驚く。もっとも、プレイヤーの音量のつまみをひねるだけだと言えばそれまでだけれども。
「ふう。折角だから感想も聴いておこうかな。唯ちゃんはどうだった?自分達の演奏を聴いてみて。」
 停止ボタンと思われるボタンを何度か押しながら、夕季先輩はこちらを見ずに訊ねてきた。プレイヤー相手に首を傾げたりボタンをまた押したり。どうにもコミカルだ。機械音痴なのかなぁ。
「はい!鳥肌が立ちましたよ!やっぱり私、憧れの明澄高校の合唱部で歌ってるんだなって!」
 梓の返答は元気溌剌。見れば目も輝いているではないか。あれ、なんか女声陣みんなこんな感じじゃないかい?富女子を語る時の夏先輩と言い、麗王を語る時の日宮さんと言い。
 しかし、今の梓だ。即答だったな。
「梓、昨日の演奏に満足してるのか?自分の力を出し切ったって、思えるのか?」
 思わず、そんな変な事を訊ねてしまっていた。だが僕の言葉は質問ではない。少なくとも僕にとってこれは反語だった。「満足しているのか?しているわけがない」。「自分の力を出し切ったか?出し切れたはずがない」。紛れもない僕の本心だった。
 だからこそ、即答で美辞麗句を飾れる梓の姿が鼻に付いたのかもしれない。とにかく僕には、梓の台詞が。
 不快で仕方なかった。
「満足してる訳ないよ。」
 またも即答だった梓の言葉は、字面の上では否定的だったものの……梓の顔を見れば、その言葉に後ろめたい意識が含まれてなどいない事が一目瞭然だった。
「情けない話だけどさ、初舞台って事で最初は緊張してたんだよ。聴いてる人も多かったじゃん?歌い出しなんて戦戦恐恐だったよ。でも、すぐに歌ってるのが楽しくなった。何て言うんだろう。安心したってのが妥当かなぁ。」
 それは楽しそうに、嬉しそうに。きっと心の中を隠さずに表に出しているんだろうなって思える素直さで、梓は話していた。
 その瞳の輝きは、既に恍惚によるものから変化していた。顔の前で両手をばちんと合わせ、口が真一文字に結ばれ、緩む。恐らくは瞳の輝きの意味は。
 野心。
 それは更なる輝きへの渇望。
「力いっぱい歌を歌う事が、あんなに……何て言うの?気持ち良いとは思わなかったよ。それこそ、思い出すだけで鳥肌が立つくらいにね。
 でもだからこそ、最初から全力をぶつけられなかった事が悔やまれるんだ。もしも最初から最後まで本気で歌えていれば。私の力不足で届かなかった音程や伸ばせなかった音を歌いあげられていれば。考えただけで胸の奥が疼くよ。満足なんてしてらんないね!」
 そうか。梓が僕の、形ばかりの質問に否定形で応えたのはここにつながるのか。彼女の感じている内容に関しては、僕と同じだった。しかし決定的に異なる点がある。それはおそらく、僕の形ばかりの質問の、二つ目なのだろう。
 自分の力を出し切ったか否か、だ。
 僕は、自分の力を出せなかった。だから、本来ならば出来た事が本番で出来なくて悔しかった。次は力を出し切れるようにと誓ったんだ。
 梓は、最初こそ小心だったものの、演奏中に本来の自分の力を取り戻した。自分の力を出せていたんだろう。だからこそ、自分の力不足を痛感した。その思いが、その力不足を埋めた時の、未来の自分達の姿を見せているのだろう。
 梓唯。僕と同じ二十五期。僕と同じ初心者のはず。でも、彼女は昨年、中学三年の夏、二十四期で当時一年生だった禄門朱緒先輩の音楽に惹かれている。合唱に関する興味という点においては、確かにアドバンテージはあるのだろう。
「……なんだよ、人の顔をじっと見つめて。」
「なんか梓がかっこよく見えて。」
「はあ、私は人間だい。勝手に神格化しないで欲しいね。」
「別に神を見るような眼で見ていたつもりはないんだけどね……。」
「それはそうと泉、お前の感想としてはどうなのさ。昨日の演奏はさ。」
 うーん、なんだか梓の後に言うのが無性に情けなく思えてくるんだけど……仕方ないか。取り敢えず、僕を苛立たせてその気にさせた憎き男・真吹の件は伏せておくものの、自分の力が出し切れなかった事についての後悔や次にかける意気込みなんかは隠さずに打ち明けた。
「へー、なんか意外と意外なんだな、お前。」
「何その、何言われてるのか見当もつかないような反応。」
「意外と怖い事言うんだなーって思っただけさ。」
「怖い事?」
 なんのことだ?と言いかけた矢先。
「ちょいやー!」
「「うおっ!?」」
 突如として辺りに響いた夕季先輩の雄叫びが僕と梓の会話をばっつりと引き裂き割った。
「はあ、ふわあ、やっとMDを吐いてくれたなこいつめえぇ。」
 何故か汗だくの夕季先輩。何故かって、考えられる行為は限られているものの、どれをとっても汗などかかない行為のはずなのだが……。
「なんや、まぁた夕季の必殺の……臨解『インテグラルドライバー』かいね。」
 しかし周りの先輩方の様子はいたって平常通り。こ、これが日常風景だったのか。
 そうとは思えない一年勢は、取り敢えず今しがた謎の技名を教えてくれた二十三期Sop.(ソプラノ)の十賀初音先輩に話を伺う事にする。
「金沢弁講座以外の説明は他の誰かに回したいところやねぇ……ユー、任したわ。」
「説明しよう!臨解『インテグラルドライバー』とは!その名の通り、すごくすごいのである!」
 名前関係ねぇ!すごくすごいってどんなだ!
 普段のツッコミ担当がこの自主練習に参加していないので、この場は僕にお鉢が回ってきた模様。仕方ない、不肖ながらこの泉大志がツッコミやらかさしてもらいますえ。
「続きはWebで!」
 くそぅ、うちにパソコンないんだって……。じゃなくって。ちゃんと説明して頂かないと。
「簡単に言うと、マニュアル通りの機械操作だな。」
「簡単だなぁ……。」
「但し成功率は255分の1だな。」
「マニュアル通りなのに!?」
 予想外。夕季先輩に変な属性が追加してしまった。しかしそれにしても、先輩方慣れ過ぎである。
「まぁ私の『インドラ』は置いておくとしてさ。」
 略称自重ぅ!ちなみにインドラとは帝釈天の事なのだそうだ。まぁいい。置いておくとして?
「それより昨日の演奏を聴いてみてどうだったのかを」
「言いましたよ!夕季先輩が聞いてなかっただけですよ!」
「ばかな……私の『インドラ』が成功するまでに、一体どれだけの時間を要したと言うの!?」
 多分他の人がやってたら秒殺だったんだろうね。ていうかインドラ置いておいてよ夕季先輩。なんか繰り返しになりそうだから同じ事をつぶさにもう一度説明する僕と梓。
「それで、僕達の感想を聴いてどうしようってんです?」
「どうするつもりもないよ。私が改善できる内容が含まれていたら別だったけど。そう言うのでもなさそうだしね。」
 なるほど……確かに僕も梓も、自分がどうだったとか、今後自分がどうしたいとか、そんな事ばかり感じていたし考えていた。全体像に関しては、どちらかと言うと今演奏を聴いて初めて知った「新発見」が多く、それらが良かったのか悪かったのか、自分の中で消化しきれていないところがある。
 そう言えば以前日宮さんが……自分の演奏を自分で聴いて、自分で評価を下して判断できないと道に迷うとか何だかそんな事を言っていたような気もする。そうか。演奏を聴き直すと言うのは存外大切な練習だったようだ。
「そう言う夕季さんは、この昨日の演奏、どう思ったんですか?」
「私?私はねぇー。んー。でも今の一年生に言うのもなー。」
 夕季先輩の唇が色んな形に動いている。しかし聞こえてくる音は全て例外なく「んー」だった。おお、あんな形でもそう聞こえるのか。どうでもいい事に感動。
 それはそうと、この様子だとあまり良い印象は受けていない模様。突っ込んで訊かない方が良さそうだな。
「泉。反省は終わったか。」
 夕季先輩の口の動きに関心しきっていると、後方から健馬先輩の声。
「随分真面目に聞き入っていたようだからな。邪魔しては悪いと思ってな。」
「正直『インドラ』の辺りで邪魔して欲しかったくらいですけどね……。」
「反省点を逐一確認して行くのもいいが、そろそろ具体的な練習を進める頃合だろうと思う。同じ一年の鍋島には休み明けに渡す事になるが、お前には渡しておこう。」
 そう言って健馬先輩は、一冊の薄い本を渡してくれた。なんだろう、ドイツ語かなぁ。中は楽譜だった。
「合唱と言うよりは声楽向けだと思うが、要するに声楽のドリルみたいなものだな、漢字ドリルとか計算ドリルとかの。」
「これを使って練習……でも楽譜は分かりますけど、歌詞がありませんよ?」
「それは定められていないんだ。だからこちらで決める。と言うより、どんな発音でも正確に音程と音の長さを合わせられるようにする練習だからな。その意味では、事実上は全ての音素が歌詞の候補となっている。」
 ふうん……パラパラとその楽譜をめくってみる。見慣れた音符ばかりで別段難しそうには見えないけれど。
「正確に、と言うのがどの程度厳密に見られるのかによるからな。少しやってみるか。」
 そう言って、健馬先輩は僕にいくらかの発声練習を手ほどきした後、その楽譜で練習させてくれたのだが……
「短い!伸ばし切っていない!」
「入りが遅い!今度は伸ばし過ぎだ!」
「掘るな!移動してから音が合うまでに時間がかかり過ぎる!」
「だから短い!特にブレス前だ!吐き切れば一瞬で空気が入ると教えただろう!」
「高音が支えられていない!小手先で歌おうとするな!」
「ブレス後の音程!低い!」
「自信を持て!高音を恐れるな!」
 などなど。
「健馬、さすがに最初から飛ばし過ぎなんじゃないか?泉もついて来れていないぞ。」
「しかしユーさん。泉は上達を望んでいます。このぐらいきっちりやるくらいで丁度良いでしょう。」
 うう、確かに上達したいけど。
 練習なのかけなされているのか分からなくなってくる……というのも、自分では言われた通りに声を出しているつもりだからなのだ。正しいやり方が分からない。
「では健馬がひとまずお手本を示してみろ。私が見よう。」
「分かりました。では、泉と同じパートから。」
 そう言って健馬先輩がお手本を示してくれるものの、うん、僕もそう歌っているはずなんですけど、何がいけないんですか、と納得いかない気持ちが湧きあがって来る。
「今の健馬のがお手本なのだが……まあ、今日渡されたものを今日中に仕上げろというのがそもそも無理なのかな。」
「確かにそこは性急だったかも知れませんね。よし泉。来週末にでももう一度同じ練習をするぞ。それまでにたとえ分からなくても練習しておけ。効果は確実に出てくる。」
 う、うーん。
「納得いかない気持ちも分かるな。だが続ける事で鍛えられるところもある。同じ事を練習していてもと思うかもしれないが、同じ事をより効率良く出来る様に学習していくんだ。まずは健馬の言う通り、一週間やってみよう。」
 州藤先輩も後押し。全く納得できていないけれど、言われたからにはやってみようと、その程度には思った。

 いつの間にか昼を迎え、講義室は和やかに休憩ムードを迎えていた。音楽室まで出張っているメンバーもいるので全体把握出来ている訳ではないけれど。
「自主練習とか言って、先輩方全員いるみたいですけど、すごいですよねー。」
 おっとりと爆弾発言を繰り出す宝屋。お前それだと一年がやる気ないみたいに聞こえるじゃないか!
「もうじき声楽の校内選抜ですからねぇ。」
 ペットボトル500ミリリットル容器のお茶?を二つ数える間もなく飲み干した夏先輩がこれまたおっとりと返した……あれ?今なにかおかしくなかった?まぁいいや。概ねいつもの光景だ。
 ちなみに声楽と言うのは、既に毎回の如く登場する単語なので説明も簡単に済ませるけれど、独唱の事だと理解している。楽器がせいぜいピアノがあるかないかって程度だそうだから、一人オペラってイメージなのかな。で、それは良いとして。
「声楽コンクールに出場するのに、校内選抜があるんですか?」
 言ったのは僕だけど、側にいた梓も宝屋も似たような疑問を抱いたらしく、夏先輩に顔を向けていた。
「ありますねぇ。各学校から参加できる最高人数が決まっているそうでして、希望者全員が舞台に上がれる訳ではありません。ちなみに本来は参加不参加は各人の意志によるのですが、実際は去年から全部員が、少なくとも選抜には参加していますね。」
 二本目のペットボトルに手を伸ばす夏先輩。二本目なのかそれ以上の本数なのかは知らないけど。
「本選は8月下旬、文連のコンクールの前後です。選曲等もありますからね。そろそろメンバーを固める頃合なんですよ。」
「選曲って、各人が勝手に決めれば良いものなんじゃないですか?」
「それはそうなんですけれども、ピアノ伴奏があれば伴奏者との兼ね合いもありますからね。先輩にはお馴染の伴奏者様か……山際さん、来るかなぁ……?」
 あ、夏先輩の顔があれだ。うっとりしている。そうこうしている内にペットボトルが……いやもうこの実況控えよう。つっこんじゃ負けだ。しかし誰だ、山際さん。
「山際さんって言うと、二十二期のAlt.のパートリーダーですよね?」
 おお、流石Alt.の梓。二十二期の先輩まで把握しているとは。ちなみに今の三年生が二十三期だから、えー、ついこの間の三月に卒業した人達か。僕は二十二期のBas.の先輩なんて知らないんだがなぁ。
「流石ですね梓さん。山際さんはピアノ専攻で進学しているはずですから、都合がつけばきっと私達に手を差し伸べて下さるはずの女神の様な麗しい方なのですよ。」
 夏先輩、一話につき一度はうっとりしている気がする。『うっとり夏っちゃん』。我ながら流行りそうにないネーミングだな。
「ところで夏先輩、今年も二三年生は全員参加……校内選抜には参加されるのですか?」
 心なしか鼻息を荒くしている様に見える梓。鼻からしゃべっているんじゃないかってくらいに。
「ええ。二三年と、あと一年男声は全員参加ですね。」
 にっこりと返す夏先輩……あれ?今何か引っ掛かったようなきがするけど、まいっか。
「へぇ、一年男声って事は僕や泉君も参加するんですね、まいっか。」
 良くねえええ!
「良くない!ちっとも良くないよ宝屋!」
「無欲って事?」
「『欲ない』とは言ってないし!まいっか、じゃないよまったく!」
「やっぱり鍋島の奴と比べると見劣りするな泉のツッコミ。」
「無茶言ってくれるなって梓。と、それよりどういう事なんですか夏先輩!僕達の参加まで確定しているなんて!」
「確定。うん、よく分かったね。一年男声は校内選抜行わずに大会当日参加になってるよ。」
余計悪かった!生き恥を晒す事を前提にされていた!
「都先輩、どうして僕達だけ選抜も無しに参加出来るんでしょうか。いくらか後ろめたくなりますよ。」
 確かに自分みたいに下手っぴを出場させるよりは、出場する気概のある先輩方を選抜とかなしにして参加させれば良いのではとは思うなぁ。
「これも含め伝統ですね。皆の前では言えませんけれども、自主練習にまで来てくれる一年生になら言えると思うので伝えておきます。
 実は、明澄がかつてBグループ、つまり大人数でコンクールに参加していた様な頃は、男子も沢山入部してくれたそうなんですが、コンクール練習になる辺りで退部していったんだそうです。
 声楽コンクールの時期と言いますのは先程お伝えしました通りで、それに向けての練習ですから当然一か月くらいは前から声楽の練習を始めますね。その中で合唱への関心、つまり楽しさや厳しさをある程度分かってもらう為、だと聞かされています。」
「……退部しがちな一年男子に、退部を踏みとどまらせる為に声楽に出場させる訳ですか。」
「あ、こんな話をしたからって焦らないで下さい。入ってきた動機はどうあれ、県唱祭や声楽をきっかけに合唱部に対する気持ちが強まっていれば、先輩の私達としても嬉しいですし、心強く感じます。
 ……やっぱり、コンクールに向けての練習になってきますと、楽しいだけの練習にはならないんですよ。簡単に上達も出来ませんし、恥もかきます。悔しい思いもするし、壁にもぶつかる。練習だけ見てもそうですよね。そして本番がどうだって話になっては、もう……。」
 言葉を失くした夏先輩の表情は、何故か笑顔だった。でも、目の焦点が合っていない。悔しいとかいう文脈だったはずだから、これは、無理して笑っていると言うよりは、自嘲の意味が近い気がした。
「今だから言えるのですが、梓さんが初めてこの部に来てくれた時、男の子達を追い払っていたじゃないですか。」
「え?そう……そうでしたね。」
 急に話を振られた梓が間抜けな顔をしていた。そう言えばそんな事もあったな。
「本音を言えば、新入部員になってくれるかもしれなかった人達が追い返されたのですから、残念な気もありました。でも、もしもその人達が、日宮さんの外見に惹かれてそのまま入部したとしても、これからの練習……私が一年前に体験した合唱の夏を乗り越えられるのかなと思うと、無理かなって思いますね。」
「……。」
 今になっても言えないけど、僕は日宮さん目当てでここに来た。入部するにいたったのは先輩達の演奏(夏先輩は指揮していたから歌ってないけど)がきっかけだけど、それでも、さっき夏先輩が言っていた男子連中と僕の何処が違うと言われても、何も言い返せないと思う。
 僕は、夏先輩の言うような「合唱の夏」を乗り越えられるのだろうか。乗り越えた頃、確実に成長できているのだろうか。分からないし自信もない。でも、やらなければ憎き真吹の奴に勝てないんだろうな。
「そうだ。夏先輩も出るんですか?私、夏先輩の歌って拝聴した事がないから、楽しみですよ。」
「ギクッ。」
 はっきりと口を動かして擬音語を発音した夏先輩。それ口で言うものじゃないんですけどね!
 しかし梓の言う事ももっともだった。夏先輩と言えば練習にしたって指揮で部員全体を率いているイメージがある。彼女の歌声と言われて即座にコレ、といった声を記憶によみがえらせる事は出来なかった。っていうか。
 僕も、夏先輩の歌声って聞いた事すらないんじゃない?
「あっはっは!勿論予選には参加しますよ!曲はまだ決めていませんが、三曲程度には絞れていますから、今日明日中に確定させて練習にも専心したいところですね。」
 ごしんと胸を叩いて見せる夏先輩。胸に何か仕込んであるのか……?これを見た梓の顔が輝きだした。なんだお前、夏先輩の山脈は自前だぞ。
「それでは聞かせて下さいよ!是非!夏先輩の歌声!」
「うっ……もう少し練習してからで……」
「是非!」
「た、食べてから、ね?」
 そりゃそうだ。が、夏先輩の弁当箱は既に空、それを言うなら腹ごなしの後……いや待て!弁当箱が……重箱だっただとぉぉぉ!??
 めっしりと敷き詰められたおはぎをその場にいた一年達に配り、お茶を流し込んで、夏先輩は練習を再開した。梓の前で今日中に演奏を披露する事を約束していたので、上手い事言って僕と宝屋もその場に合わせてくれる事にしてもらった。
「うっわぁ、楽しみだなぁ夏先輩の歌声!」
 梓はもう幸せの絶頂の様な笑顔だ。どんな奴でも笑顔は素敵なもんだね。たとえ梓でも。しかしお前何しに来たんだよ。
 と、そう言えば。僕はその場にいた梓と宝屋を順番に見て言った。
「夏先輩の事もそうだけど、僕達ってさ、お互いの歌声知らないじゃん。」
「そりゃあ、別のパートだからそうだわな。」
「ましてや一年生だし、合同で練習していても先輩の声しか聞こえないもんね。」
「うん、そこでだ。夏先輩同様、僕達もお互いの歌を合わせてみないか?お互いの実力を見るって意味でも。」
「ふん?なんで実力云々になるんだよ。一年男声は選抜なしで本選行けるってのに。それに私それ関係ないじゃん。」
 おっと、実力云々は早計だったか。特に梓には関係ないもんな。
「じゃあ梓さんが揃う前に僕達だけで合わせてみようか。確かに、先輩以外の誰かと比べるってのもやってみたくなったよ。」
 お、宝屋は乗ってくれたな。そう言えばTen.はこいつと渡先輩しかないんだから、宝屋は普段、二つ年上の渡先輩と比べられてるんだよな……。
 そう言う事で梓には、夏先輩からお呼びがかかったら僕と宝屋を呼ぶように託けた上で、僕達もやんわりと午後の練習に取り掛かる。と言っても自分だけでメニューをととのえるだけの知識も実力もない為、実際は他の先輩達の練習風景を眺めたりがメインだった。
 確かにこれまでは、パートリーダーの州藤先輩やサブコンダクターの夏先輩に言われた通りのメニューしかこなしていないし、細かい指示にしても、側にいる健馬先輩や鍋島に言われた通りのアドバイスに従っていただけ。自分自身で課題を見つけると言った行程を全く経験していない訳だ。
 それを思えば、朝に県唱祭の演奏を聴いたのは大きな意味があったんだな。あれが今の明澄高校の演奏。今出来ている事も出来ていない事もあの演奏に含まれているって事なんだ。自分で課題が見つけられないなら実際の演奏を振り返って課題を見つける、言われてみれば当たり前のようだけれども、その程度の当たり前も今までの僕にはなかったんだな。
 思い切って州藤先輩に、練習を見てもらえないか声をかけてみた。それも、県唱祭で歌った曲だ。入門用の意味合いが強い曲だったらしく、もう二度と歌わないかもしれない曲を練習しようと言うので変な顔されるかと思ったけど、州藤先輩は快諾してくれた。
「ふむ、自力で課題を見つけて取り組もうと言う訳だな。まったく見事な進歩だと感心した。」
 しかし、実際に練習を開始──歌ってみて自分で問題だと思うところを指摘して再挑戦──してみると、どうも複雑な表情で応じられた。
「僕の演奏いかがでしたか?僕はここの音がはまらないと思っているんですけど。」
「……うーん。まぁそこは泉の言う通りではあるが……泉。」
「はい?」
「さっき健馬に言われた事を覚えているか?」
 健馬先輩に言われた……どの事だろう。あ、謎の楽譜で練習を始めた時に色々言われたアレか。
「アレは、何もあの楽譜で練習した時にのみ表れる現象ではないんだ。お前が歌おうとした時に常に現れる、癖だと言えるだろうな。今回も勿論そうだ。」
「……。」
 何と言う事だ。自力でやるべき事を見つけた様な気になっていたものの、本来やるべき事は予め健馬先輩によって指摘されていたのだ。
 再度指摘されたそのアドバイスの通りに歌ってみようとする。いつの間にか別の曲を歌っているんじゃないかと錯覚するくらいに、入門用であるはずの楽譜は表情を変えた。
 これまでも、音程や音の長さなんてものは指摘はされていたし、理解もしていた、守ろうとしていたし守れているものだとばかり思っていた。でも実際はまるで合ってはいなかったのだ。
「落ち込むほどではないな。音程は合っていたのだから。だが健馬の言うように、正確な音程にたどり着くまでにどうしても時間がかかってしまっているんだ。初めの内は仕方ないさ。だが、上達しようと言うのなら、具体的に言えば、コンクールで上を目指すのであれば、一瞬とかけずに正確な音程に移行できなければならない。」
「……はい。」
 間違ってはいない。だが、足りない。ギリギリの合格ラインで満足していたって事か。
 自分では間違っている事も分からない素人に。健馬先輩の歌い方と自分の歌い方の差に気付けない素人に。一瞬とかけず正確な音程に移行できる、そんな上手に歌い上げる事ができるのだろうか。
「出来る。素人で無くなれば良いだけだな。」
「……そんな簡単に行きますか?」
「誰も簡単にとは言っていないぞ。」
 じっ、と目を見つめられた。きつい眼差しではなかったけれど、その目には強い意志が感じられた。
「今までお前は、生まれ持った音感だけで歌っていたにすぎないんだ。自分の出来る範囲で歌っていたにすぎないんだ。だから出来なかったと言うだけだ。正しく音程をとる、なんて毎日練習していればすぐに出来るようになる。というか、最低限出来なければならないレベルだ。」
 うう……。自信が無くなってきた。
 今まで出来ていたと思っていた事がまだ全然出来ていなかったと知らされただけでも衝撃だと言うのに、それを完璧に直してなおそれが最低限のレベルだと言われては。
 いやいや、州藤先輩がこんな事を言うのは、何も僕を責める意味じゃないはずだ。見つめられた時の目を見ればそのくらいは分かる。練習すれば出来る、それを伝えたかったに違いない。
「よし……では今日から、正確な音程が取れる様に頑張ります!」
 言ってから、なんだか凄く低レベルな事を言っている気がしたけれど。これが今現在出来ていないのだから仕方ない……ぐすん。
「その心意気は素晴らしいと感心するな。だがこれを実現させるためにも、コールユーの練習が効果的だろうな。ああ、今日渡した楽譜の事だ。試しに一度練習してみるか。私も音源を確保できる時間が限られているから、一度きりになるだろうが。」
 そう言って例のコールユーなんたらで練習して州藤先輩との練習が終わる。最後の指摘によると、僕の根本的な弱点は高音で逃げる事らしい。これが分かっただけでも今日ここへ来た甲斐があったというものだろうか。


「おーい泉君!」
 音源が無いのでブレスの練習をひたすらにしていたところ、溌剌とした声で日宮さんに声をかけられた。
「唯から聞いたよ。一年生同士で合わせてみるんだって?今丁度私にポーター回ってきてるから、私もまぜてよ!」
 一年生同士で合わせる……そんな話になったのか?ていうか梓の奴は乗り気じゃなかったんじゃ……まぁ……そこはいいか。
 日宮さんが梓を、僕が宝屋を呼んで来て、今日自主練習に来ている二十五期、一年生全員が揃った。四声も揃った形になるのか。それでは、つまり合わせると言うのは。
「曲は何にするの?校歌?それとも……」
 一年だけで、合唱をしようという話になっちゃっているワケか……。
「そうだ、せっかくなら先輩の誰かに聞いてもらってアドバイスもらおうよ!暇な先輩を見つけてさ!」
 大体こんな失礼な台詞を笑顔で言うのは宝屋だ。それにしても、誰かに聞いてもらう、かあ。
 一年生だけで合わせて歌うのは初めてで、上手く出来るかどうかも自信が無いってのに、いきなり誰かに聞いてもらうと言うのもなぁ……とネガティブな発言を渋っている内に、日宮さんが十賀先輩を引っ張ってきた。
「暇な先輩と聞いて!」
「ちょっ、私が無理言って来てもらったんだからね皆!勘違いしないで!」
 なんだか日宮さんの台詞として定着しつつあるなこの……「勘違いしないでよね」とか言う台詞。「アタシが暇やと思われるくらい痛くもないげんけどね。それより面白そうやがいね。暇じゃなかったら他の先輩ら全員誘っとったじ?」
 暇だの暇じゃないだの連呼する辺り、暇じゃないんだろうなぁ十賀先輩。
 そんな十賀先輩に一礼、ついで最初の入りの合図だけを依頼して、僕達二十五期、同期だけの初めての合唱が始まった。

 さ
  っ
   ぱ
    り
だ!

 今まで如何に州藤先輩や健馬先輩、あと鍋島に頼りきりだったのかが良く分かる。
 今回の曲にパートソロが殆どなく、メロディーはともかくタイミング的には他のパートと並行して歌っていく曲だったのがせめてもの救いだった。一応歌っていける事はいけるのだけれど、自分のメロディーが頭から離れてしまい、宝屋の旋律につられる事多数。
 失敗してばかりだから、ブレスの回数も増え、失敗の連鎖に拍車をかける。肝心の和音構成の場面でも音を外して……無残。

「はははーお見事!」
 ぱちぱちと拍手を送り、からからと笑顔を見せて、うんうんと頷いてくれる十賀先輩。
 間違っても「如何でしたか?」なんて聞けようはずもない。どうだったかなんて自分でしっかりと分かっている。
「如何でしたか十賀先輩!」
 大体台詞で空気を読めないのは宝屋だ……宝屋ああ!
「んー?上出来上出来。大したもんやね。最後まで歌えてんしね。」
 ……え?判断基準そこなの?最後まで歌えたから上出来って、物凄い甘い判断じゃない?
「私がいるのでそれは当然です。」
「ははは!蓮花ちゃんは心強いなぁ。確かに判官贔屓が働いとるんかもしれんけどもやね、後輩の成長を間近で実感できて十賀さんは満足しとるがや。」
 確かに愛想笑いには見えないな。馬鹿にされている感覚でもないし、本当に嬉しいと感じているのかもしれない。
「で、贔屓目無しに見てどうこうって話になるとやね、最後まで歌い切っとったけど、合唱にはなっとらんかったいね?自分らでも分かると思うんやけど。」
 ……そうだ。
 自分のパートが一人しかいないってのに、そのパートを全う出来なかった。
「誰か一人に言っとる訳じゃなくって、一人一人全員に言っとると思っといてね。これは個々の実力がどうこう言うのに加えて、他のパートが入って〝合唱〟になった時でも、自分のパート、自分の役割を把握出来とるか否か、そう言うのにまだまだ慣れてない所為もあるって覚えといて。」
 ……そうだ。
 自分のパートがどう動いているのかは把握していた。それなのに、横に宝屋が来て別のパートを歌っているだけで、自分のペースが分からなくなった。メロディーもそう。入るタイミングもそう。
 今回の曲は所々他パートとユニゾンとなる為、途中で自分のパートに復帰も出来たけれど。例えば入学式で聞かされた曲なんかではこうはいかないんだろうし。
 他のパートとの掛け合いも含めて練習できないと、合唱としては不完全って事か……。
「あ、ありがとうございました十賀先輩、お忙しい中……」
「ほんなたいそな。たとえ忙しかろうと、可愛い後輩の頼みを振ってしまう十賀さんではないない。」
「ホンナタイソナ??」
 あ?
「はいそんな訳で始まりました十賀初音さんのドキドキ☆金沢弁講座第三回の三題目!『たいそな』!」
 いや今の流れで講座いらんだろ!
「日宮さん、『たいそな』は『大層』って言葉が入っている様に、『大袈裟な』の意味を持つんだよ。相手の心遣いや状況判断に対して『そんな大層なものではない』という意味が隠されているんじゃないかと僕は思っているよ。」
「ってアタシが言ってた!」
 言ってねぇ!
 ありがとう宝屋、空気読めないお前に助けられたよ……。
「じゃあつまり、『勘違いしないでよね、そんな大袈裟じゃないんだからね!』の意味だと……」
 なんだろう。正しいのに違和感が並々でないな。
 まあそんなこんなで十賀さんにお礼を言って。で、夏先輩の準備がととのう……とかだとテンポが良いんだけれども、夏先輩は夏先輩でなかなか音源を入手できなかったらしく、練習もまだ剣もほろろ、宴もたけなわな感じだった模様。
「そういえば夏先輩の声楽の練習を聴かせてもらう約束があるんだってね。私もまぜてもらおうかな。」
「日宮さんは同じパートだから、都先輩の歌は聴いた事あるんじゃないの?」
 宝屋の指摘はもっともだった。パート練習はパートリーダーが執り行うので、Sop.だと十賀先輩か、或いはサブの朱緒先輩が練習をつけているはず。夏先輩は練習を受ける側のはずだ。
「例えば泉君なら憶えてるかもしれないけど、健馬先輩は声楽を合唱の実力を上げる為の練習に適している、くらいの言い方をしていたよね。それも確かに正しいけど、それでもやっぱり声楽と合唱の声は全然別物だよ。
 加えて今歌った様に、そして十賀先輩にも指摘された様に、他の人がいると思って安心して歌えるのとは違うからね。伴奏の有無は関係あるとしても、自分の力、自分の身体、自分の声だけで音楽を作り上げなければならない。その意味ではまだ私は夏先輩を理解しているとは言えないもんね。」
 ……そっか。
 今のはまだ良かったんだ。パートで一人ぼっちだったとは言え、合唱だったから。四人で歌っていた事になるんだ。それが声楽だと、当然合唱ではないから……一人の力で音楽を完成させなければならない。
 合唱でもパートで一人きりになってまるで歌えなくなる僕なんかから見れば、もう凄まじいレベルの世界に思えてくる。はあああ。特大の溜息が漏れる。「漏れる」って言うレベルじゃないな。もうこれ溜息が「辺り一帯に立ち込める」くらいのレベルだわ。
「どうしたの泉君、そんな面白い顔して。」
 面白い顔を作ったつもりはないのだけれど。日宮さんに言われるのだから面白かったのだろう。いやあ自分にはまだまだですよと、ネガティブ発言をうっかりしっかりばっちりすっかり日宮さんに投げてしまう。
「まぁ、そう思う気持ちも多少は分かるけどね。」
 理解されたらされたで複雑な後味が残ったりする。
「でもまだ挑戦してない事に対して億劫になるのはなんだかって思うよ!ほら、Bas.の旋律ってあまり主題回らないし、主旋律しか歌わない声楽とは完全に別って考えられるから特に!」
 むう、そんな考え方も出来るのか……それ以前に日宮さんに心配かけるようじゃ駄目だな。日宮さんは笑顔じゃないと。
「おーうい二十五期の皆ー!」
 そうこうしていると夕季先輩に呼びこまれた。
「夏が呼んで来てくれってさ。あれ、蓮花ちゃんも呼んで来いって言ってたかな?」
「声楽の練習なら私も是非お聴きしたく!」
「あっそう。言っても選抜の練習だけどね。まだ曲を歌い切る自信が無いんだってさ。」
「それ言っちゃって良いんですか夕季先輩……。」
「夏も期待をかけられるのは嫌だろうからこれで丁度良いよ。そいで、コンコーネで発表するってさ。」
「コンコーネ?」
 さっと夕季先輩が示したのは、例のコールユーたら言う楽譜。中には伴奏つきの練習もあるらしく、それをコンコーネとか言うんだそうな。
「皆はもらって間もないと思うけど、先輩達にとってみれば普段の練習用の楽譜でさ、うまく歌えて当然の課題だよ。」
 あれ?夏先輩のハードルを下げるみたいな事言ってませんでしたか夕季先輩。今露骨に上げた様な気がしますが?
 そんな疑問も当人には届かぬままに夏先輩の待つ音楽室、グランドピアノの前に案内される。そっか、伴奏つき云々とか言う曲なんだっけ。椅子には夕季先輩が座ったので、彼女が伴奏を担当する模様。
「お!揃いましたねぇ二十五期の皆さん!あ、皆さんと言っても今日いらっしゃる方々がこれで全員と言う意味ですよ。さあこれから私、都夏葉の一世一代の演奏が今まさに始まろうとしている、漢文で言うところの、『将』の字を使った再読文字のあれですよあれ!『将に~とす』、の状況さながらでございまして、」
「いいからやんなよ。」
「ぎくっ!」
 夏先輩の必死の時間稼ぎも夕季先輩にばっさり切り捨てられる。已む無しと言った様子で夏先輩が拍子を取って─この仕草は毎日見ているけれど─歌い始めた。

 その歌声は微風のように静かに始まり。
 やがて伴奏の旋律に急き立てられる様にして波を作り。
 大波小波が寄せては返す様に、ピアノと慎重に駆け引きを演じて見せて。
 最後には大きな山を魅せ、静かに演奏を終えた。

「って、これだけ?」
「……はい。」
 あまりにもあっさりと終わってしまった夏先輩の演奏披露に、驚きと言うか呆れと言うか……良いも悪いもない物足りなさしか残らなかった。
「練習用だからねぇ。さっくりと終わるんだよ。そんな楽譜で以て演奏披露ですよなんて夏も人が悪いと言うか腹が黒いと言うか胸がでかいと言うか。」
「変な事言わないで下さいよ!それに夕季だって何回かピアノ間違えましたよね?」
「二回かな。」
 さらっと日宮さんの辛口チェックが入った。
「へーぇ、こうして私が練習の時間を割いて貴女の評価の向上にわざわざ付き合ってあげたってのに揚げ足を取るって訳ね。やっるぅ。」
「それはそれ、これはこれ、俺は俺、私は私です。」
 多分、夏先輩のシルエットが触手に弄ばれるんだろうね。死と腐敗を支配する。うん、時代設定に合わない。雪嶺の実年齢が割れるのは時間の問題だな。それは置いておくとして。
「夏先輩、他人の失敗よりも自分の失敗の方が成長するのに栄養価が高いんですよ。」
「ぎくっ。」
 今日の日宮さんは辛口批評が多いな。二回目だけど。これに対して夏先輩は萎縮する事が多いな。三回目だけど。
「それ言われると私も喋れなくなるね。蓮花ちゃん、やっるぅ。じゃあ蓮花ちゃんの感想は後で訊くとして、唯ちゃんはどう思った?夏の演奏。」
「えっと……」
 いきなり話題を振られたから……ではなく、最初から呆然としていた模様の梓。その理由は僕と同じだろう。
「あの、正直に言いますと。もっと長い曲だと思っていましたので、印象に残らなかったって言うか、出だしとして聴いててあまりその、夏先輩の歌ってる姿ばかりに気を取られていまして、疎かに聴いてしまっていたというかその、はい。」
 おずおずながら応える梓に、
「え?私の歌い方、何か変でしたか?」
 とんちんかんな返事をみせる夏先輩。
「私は伴奏用の楽譜を見ていたから分からないけれど、少なくとも唯ちゃんの着眼点は間違ってないよ。
 歌ってる姿って言うのはつまり、姿勢とか、身体の動かし方とか、重心の移し方とか、ともすれば表情の作り方に至るまで、そういうの全部ひっくるめてって事でしょうしね。
 特に殆どの二十五期生は『独唱』する合唱部員の先輩を見ていないはず。『独唱』ってどんな姿勢で歌うんだろう、初めて見る先輩のその姿に着目するのは正しいよ。」
 夕季先輩がニコニコと梓を眺めていた。さっきの十賀先輩もそんな雰囲気だったっけ。やっぱり後輩が育って行くって言うのは見ていて気持ちの良いものなのかな。
 じゃあ僕が成長したら……州藤先輩はきっと誉めてくれるだろうけど。健馬先輩はどんな喜び方をするだろう。誉めてくれなかったりして。
 ちなみに露骨に誉められたはずの梓は、何故誉められたのだろう、本当に誉められたのかしらと言った困惑フェイスを見せていた。どんな表情でもどんな格好でも様になる日宮さんや夏先輩とは違って、こいつがコロコロ表情を変えるとなんだか面白いな。
「じゃあどうだった?夏の姿勢……も含めた演奏。」
「ああはい。揺れてました。」
「……」
 そうか、揺れていたのか。
「揺れてた?姿勢の話だから、ビブラートじゃないよね?声は私も聴いていたし分かるか。声域的にSop.っ娘の癖って分からないけど……蓮花ちゃん、この曲番って殺人歌なの?」
「さつじんか?」
 今度は日宮さんが困惑フェイス。うん、やはり愛くるしい。
「高音がキッツイ曲を指して、私達は『殺人歌』って呼んでるんだ。」
 へえ、合唱に明るいはずの日宮さんが分からなかったという事はローカルルールの合唱用語か。そういうケースもあるんだな。そしてその他の単語は日宮さんは把握出来ていたって事か。
「あ、私達と言っても明澄の、二十四期だけだけどね。」
 範囲せまっ!ローカルルールって言うか身内ネタレベルじゃないのさ!
「去年の一年女声アンサンブルを思い出しますね。」
 二十四期って事は夏先輩も該当者か。身内ネタって盛り上がるよね。仕方ない。
「それはそうと話を戻しまして。トップの夏先輩にはこの程度の音域はカバーして頂かないと困ります。低いところで支えが効かなかったのならまだ話は違いますが。」
「ひえぇ。」
 日宮さんが話題を戻しつつ切捨御免。考えてみれば批評に関してみれば日宮さんの辛口は元からか。
「支えが効かないって、じゃあ身体が揺れてたって事か。」
 最初は梓が変な事言ってるなと思って、でも皆がそれを受け入れた上で会話を続けていたので、何の事だろうと気になっていたら。
「まぁ全身で歌っていた、という言い方になるかな。実際の演奏曲であれば、いつか健馬先輩が話して下さっていたように『演技力』や『説得力』が必要となるから、そう言った表現の結果が身体の動きに反映された、とも取れるけど……」
「蓮花ちゃんの言う通り、今回は練習曲だし。それでも情感アリアリで歌いましたっていうなら別かもしれないけどね。
 ただ、実際に身体が揺れるのは仕方ないとしても、合唱をやる上ではこれは誉められた事じゃないのよ。発声に関して、本来は全身で声を出すよりも、中心からの力だけに委ねた方が楽器としては有能でね?身体が変に動いたって事は、結局小手先に余計な力が入ったか、或いは中心の力を支えきれなかったかって話になるんだ。」
 日宮さんの指摘を、夕季先輩が分かりやすく説明。分かりやすいかと言われれば……話としては分かるんだけど、ではそれを合唱ないし発声に照らし合わせて考えようとすると、「ぶっちゃけ」「ちょ、待てよ」と言いたくなる気持ちが「メイビー」想像できると思う。
 つまりこの場合は、夏先輩が小手先の技術で歌っていたって事になるのか……合ってるかな?
「ぶーん。」
 おお、夏先輩が口を膨らませて拗ねている。綺麗な人なのにその顔は綺麗どころかさっきの梓より面白い。
 なんだかんだでこの人は美人と言うよりヨゴレなんだよなぁー(遠。
「そうとも言えるんだけど、あくまで『発声面においては』って枕詞が欠かせないね。正しい発声じゃないから、真似しないで、癖にしないでって程度だよ。
 例えばそうだね。今夏が歌ったこの楽譜を、えーとピアノじゃ駄目だから……ハーモニカなりで再現するとして、楽器を使うんだから当然楽譜に忠実な音は出せるよね?でも、今夏先輩が歌いあげた様な息遣いや強弱と言った『音楽の表情』とも言うべき要素は排除される。」
 本人を目の前にして「正しくない」と平気で言ってのける夕季先輩に思うところはあるものの、その言葉の意味は伺えた。寧ろ、楽器として「正しい」事が音楽として「正しい」訳ではないと言うべきか。
「だから勿論、楽器としてすら正しくある事が難しい一年生には、参考にして欲しくなかったって解釈してね。今のは、楽器としては完全無欠で絶対に正確な夏のレベルに達してこそ許されるくらいの解釈で……」
「夕季、憶えてますからね?」
「誉めてくれて有難うって?遠慮しなくてもいいって!」
 ウフフフフフ、女声二人の淑やかな声が重なる。
「本当ですよ。夏先輩、音程で言えばピアノとばっちり合ってましたもん。ね、泉君。」
「へ?」
 急に名前を出されて、言葉を失ってしまった。今の宝屋の発言を反芻してみる……
「え?宝屋お前、絶対音感あるの?」
「ないよ?」
 即答だった。
「ないのに、音程合ってるとかって分かるの?」
「さあ。だから、ピアノと合ってるって事くらいしか。」
 うん?ピアノと合ってるって事は絶対音感なんじゃないの?あ、調律云々とか聞いた事あるか。じゃあピアノが違う事がある?でもこの場合は歌声とピアノが合ってるって話だから、ええと?
「あ、私はあるらしいですよ。絶対音感。」
 訊いてません夏先輩。しかも答え方がまた曖昧な……。
「あるなしで言えばある……のは自覚できますけどね。声高々に『ありまっす☆』とは言えませんよ。
 例えばそう、視力が両目とも一・五の人がいたとして、一・〇の人から見れば『目が良い』と思えますけど、当人が『視力って二・〇がデフォじゃん』とか思ってたら、自分では声高々に『私をして視力良き者とすべし』とは言えませんよね。」
「さっぱりなんですけど。」
「もう知りませんっ!」
 夏先輩がギョムギョム縮んでいく気がした。シドイワーシドイワーとエコーかかってたとかそんな感じであれそれ。
「泉、お前さ、絶対音感って誤解してない?」
 いきなり半ページほどぶっ飛ばして僕に話しかけてきたのは梓だった。
「確か、音が分かる能力、じゃないの?」
「それは正しいけど範囲が広すぎるだろ。言うなれば『音程を判別してしまう習性』だよ。」
「あはは。分かり易くゲーム風に言えば、オートスキルなんだよ。凄い人になると一流の音楽聴いていても音のズレが気になって休まらないって話もあるよね。面白いよね。」
 宝屋の「面白い」は大抵面白くないんだが……ふうん、自分の認識は違っていたのか。
「音感って言うのは、『音程を認識できる能力』だよ。だから何かの音を指して、この音は何の音、と訊かれて答えられる能力じゃなくて、その音を認識して……自分の声で再現できる程度に認識できていればそれで十分だよ。」
 今回説明多いな……しかしさすが日宮さんだ。分かりやすい上に愛くるしい。もうどうしよう。
「ちなみにさっき宝屋君が言っていた、『夏の歌とピアノ伴奏の音が合ってた』って言うように、複数の音からなる和音構成、ないし何らかの基準となる音から特定の音を認識するって言うのを、『相対音感』って言うらしいよ。」
「イマドキの音楽はピアノありきで、ピアノが平均律で調整されている以上『絶対音感』は寧ろ不都合な場合が多くて、『相対音感』を鍛える方が有効なのよ。」
 ……せ、専門用語が一気に登場して頭が混乱する……。
 取り敢えず、宝屋はその相対音感に優れていたと言う事か。宝屋の奴、普段のほほんと笑っているくせに凄まじい特殊能力を備えていやがるとは。
「あっれー?夏に、二十五期に……夕季もいる。皆で合わせてたりしてたの?」
 音楽室に入ってきたこの声は……朱緒先輩だ。二十四期のSop.のサブパートリーダーの禄門朱緒先輩。聞いた話では、声楽においてはここにいる誰よりも腕が立つ……腕で合ってるのかな?とにかく一番歌が上手いらしい先輩。
 ここにいない合唱部員を含めるのなら、合唱部に一度も顔を出していない天槻冴という二十三期の先輩がいるけど。
「ふえぇ~ん、夕季が苛めるんですよ~ぅ。」
「なんですって?夕季!」
 朱緒先輩に泣きつく夏先輩。同い年だけど……夏先輩は背が低いので姉妹にも見える……いや親子?
「ちょっ、待ってよ朱緒ったら!ほら、苛められる方が全面的に悪いに決まってるじゃないの!」
 うおおい?夕季先輩今とんでもない事口走ったよ?
「それは認めるけど!」
 うおおい?認めるんですか朱緒先輩!
「認めるけど、苛める方だって悪いじゃないの!何があったか知らないけど、二十五期の皆も見てる前じゃない。二人とも謝って仲直りしなさい!」
 おお、朱緒先輩、本当におかんみたいだ……年の離れた弟か妹がいるとかかな。それにしても夏先輩が謝るのは何かおかしくないかな?
「ちなみに何があったの?蓮花。」
「夏先輩がコンコーネを披露して、皆で駄目出ししていたら夏先輩が拗ねました。」
「うん夏が全部悪いね。」
 容赦ないな!朱緒先輩容赦ないな!
「まだ感想聞いてる途中だったよね。宝屋君は言ったから、泉君はどんな風に思ったかな?夏の演奏。」
「僕ですか……えーと、実は僕も梓と同じで、あっという間に終わったなって思ったくらいです。」
「ぶー。」
 あが。夏先輩に露骨に顔をしかめられた。頬を膨らませられ、膨らませさせられ……ん?
「こら。夏が悪いんだって。真面目に素直に受け取りなさい。じゃあ最後に蓮花ちゃん。」
「そうですねぇ。何と言うか、うーん、アリではありました。」
「典型的な譲歩構文だぁー。」
 あが。見る見る内に夏先輩が矢さぐれて行く。
「怒られるかもしれませんが、コンコーネって私にとって音程や音の長さの練習でしかなくって、楽曲ってイメージがないんですよね。それを今、夏先輩が一つの解釈で以て楽曲として歌いあげた訳ですから、私の知らないコンコーネの一面を見せられたような気がしまして、驚いたと言うか困惑していると言うか、そんな感じですよ。」
 なるほど。日宮さんにとって既知の楽譜を日宮さんとは異なる解釈で表現されて、日宮さんも判断に迷ったと言う事か。
 あっという間に終わったから何とも言えないけど……確かに今夏先輩は、練習用の曲と言うよりは、一つの歌を歌いあげる心づもりで臨んでいたように思える。
「じゃあ蓮花、音程や音の長さに着目した場合の夏の採点をどうぞ。」
「音程や音の長さで言えば及第点ですが、声量が不安定でしたね。」
「ふわああああん!助けて夕季!」
「うーん、声量不安定と言うなら腹筋かなぁ。何で胸がでかいのに腹筋が足りないのか永遠の謎だわねー。」
 うわあ四面楚歌じゃないか夏先輩。なんとか助け船を出したけれど音楽用語とか分からないし、日宮さんとか見る目ある人達に即否定されそうだしなぁ。
「夏先輩の演奏は伺いましたけど、それなら同じ曲で朱緒先輩も歌ってみてはどうですか?」
「ん?私?」
 あれ?話題を朱緒先輩に振った人がいる。誰かと思えば、梓だった。お前朱緒先輩の歌を聴きたいだけじゃないのか?
「そうです!私の事けちょんけちょんに言うのなら朱緒も同じコンコーネ一番で歌ってみて下さいよ!」
 ぎらりん。夏先輩の目が夜中の猫みたいに光る。怖っ!
「んー。まぁ声も慣らしてるし、構わないけど……伴奏誰かにお願い出来る?」
「朱緒がその気なら、じゃあ私がやるよ。」
 夕季先輩がそう言って構える。それを受けて朱緒先輩が、先の夏先輩よろしく指揮の構えを取る。おお、夏先輩以外がその動作をやるのはちょっと新鮮。
 そして朱緒先輩が歌うと言う事で、鼻息荒い梓が一名。夜中の猫みたいな夏先輩が一名。日宮さんも宝屋も、息を呑んでその瞬間を待っていた。
 演奏が───
「!」
 演奏が始まる、その直前から既に空気が変わっていた。
 始まる瞬間すら見逃す事を禁じられているかのような空気。
 かつて朱緒先輩が、合唱の練習を「武の心得」という単語を以て説明していた事を思い出す。
 最早僕の全神経、いや此処にいる全ての人間の意識が全て朱緒先輩に集中していた。
 静かな始まりは、静かながらも微かながらも、しかしはっきりと僕達の意識に印象付けられた。
 「いつの間にか始まっていた」のではなく、「はじめの一歩」がしっかりと分かった。
 日宮さんが「音程や音の長さ」と言っていたけれど、その区切りが僕には分からなかった。それでも、先に夏先輩が披露した演奏にぴったりと合うと直感した。
 大波小波が寄せては返すようなピアノとのやり取りの中でも、朱緒先輩の声を見失いはしない。大きくうねるところでは鳥肌が立つくらいに迫力のある声に圧倒された。
 演奏の終わり───終わってからもしばらくは目を逸らす事を忘れるほど。僕達の意識は朱緒先輩に集中していた。

「……」
 声にならない。言葉にならない。自分の気持ちが分からない。考える事すらしばらく忘れていた。
 僕がこの音楽室で初めて触れた、明澄高校合唱部の先輩方の演奏。もしかするとその時の衝撃をすら凌駕するかもしれない衝撃。
 あの時は“合唱”だった。だから、四声が揃っていた。今は朱緒先輩のソロだった。それなのに、こう感じてしまう事実。
 これが、これが『独唱』というものなのか。
「すごいです!ありがとうございます朱緒先輩!私、私感動してもう、鳥肌が立ちました!」
 相変わらずやかましい反応は梓。そう言えば去年の夏にこいつ、朱緒先輩の声楽に触れて明澄高校を受験したとか言っていたな。
 ───待てよ?今何か引っ掛かった様な。何だろう。
「夏―。朱緒の演奏どうだった?」
「いやー。あっはははは。すみませんでした。」
 そして萎縮していく夏先輩。
「そうですね。私もまさか、コンコーネをこんな風に聴けるなんて思ってもいませんでした。」
 日宮さんの浮かべる表情もまた複雑だ。どちらかと言えば無表情なのだけれど、目がせわしなく泳いでいたり唇が休みなく動いていたりと、落ち着きがない模様。
「……確かに、面白い演奏でしたけど。」
 うん?宝屋の一言が気になる。
 これまで皆、朱緒先輩の演奏に毀誉褒貶を贈るばかりだったのに、宝屋からは他にまだ何かあるって言うのか?
「独唱、って感じはしませんでしたね……」
「はぁッ!?お前何言ってんの宝屋!合唱始めて二ヶ月かそこらのあんたに朱緒先輩の演奏の何が分かるって!?」
 宝屋のマイペースな発言に対し激昂するのは梓だが……梓だけではなく、日宮さんも夏先輩も、そして僕も。宝屋のその発言が不可解なものに思えて仕方なかった。
「何が分かるって、だから僕に分かるのは、『周りと合っているかどうか』くらいだってば。」
 ……ますます分からないぞ宝屋。これが声楽、お前の言葉なら独唱だったが、それならば周りには誰もいないじゃないか。周りと合っているか否かなんて話題に上げる事すら間違っている。
「あー。宝屋君も感じたんだ。」
 そして、宝屋を取り巻く不思議な空気に意見を加えたのは。
 ピアノの向こうにいた、夕季先輩だった。
「どういう事なんですか夕季。まさか貴女も、朱緒の演奏が独唱じゃないなんて言うんですか?」
「それはあくまで、宝屋君の言い方がそうだったってだけだよ。宝屋君が言いたかったのは、周り、つまり今の場合は私のピアノと合ってるかどうかって事だよ。
 多分、独唱って言うと歌が先行して、ピアノを放ったらかしにするものだって考えていたんじゃないかな。それが朱緒の演奏だと、『ピアノに合わせる演奏になってた』って感じたんだと思う。だからこそ、『独唱じゃなく感じられた』って言い方になったんじゃない?」
 ……。
 ピアノと合っているかどうか?そうか。声楽は歌もそうだけど、伴奏がつけばそれだけ音楽が複雑になる。伴奏はただ一緒にいるだけでたしかに協力的ではあるものの、声楽と伴奏が併走しているだけでは「ひとつの音楽」としては不完全なんだ。声楽と言う独唱の形態でありこそすれ、周りと、この場合は伴奏と、合わせようと言う意識を以て、「ひとつの音楽」が完成する。
 朱緒先輩の演奏は、その意味において完璧に近かった。伴奏を味方にするというか、伴奏と合体してと言うか、
「私のピアノとも駆け引きしてくれたってところだね。弾いてて不思議な感覚だったよ。私はジャズなんて頼まれた覚えはないのにね。」
「頼んでもないのに仕上げてくれるんだから、夕季ってば私の想像した通りにすごい人だって事よね。今の演奏に対する賛辞の六割は夕季に与えられるべきだわ。」
「……ずっるいなぁ。」
 飄々としている朱緒先輩に対し、お手上げ!といったジェスチャーで応じる夕季先輩。そして立つ瀬なくおろおろする夏先輩。
 別に夏先輩の演奏がダメだった訳ではないけど(素人判断とはいえ)、しかし朱緒先輩の様なあからさまなお手本を見せつけられるとやはり見劣りしてしまう。そこはさすがに、声楽においては一番の実力者と言うだけはある……
「あ。」
 思い出した。思わずもれた間抜けな声に皆が反応する。
「天槻先輩って、朱緒先輩よりもお上手なんですよね?」
「……」
 ここで反応は二つに分かれた。天槻先輩を知っているか否か。夏先輩、朱緒先輩、夕季先輩、そして日宮さんの四人からは表情が消える。対照的に、梓と宝屋の顔には疑問符が浮かぶ。
「天槻先輩って?」
「ほら、生徒会の人だろ?でもなんでそんな人の名前が出てくるんだよ?」
 梓と宝屋は天槻先輩について情報を持たなかったらしい。無理もない。僕だって入部初日のあの日に先輩達から聞かされていなければ、天槻先輩が合唱部員だって事を今まで知らずにいた事だろう。現にあれ以来一度も天槻先輩の姿を見てはいないのだから。
 しかし姿はなくとも、昨年の彼女が残した成績は、今ここにいる朱緒先輩を越えている。朱緒先輩も声楽コンクールの上位に食い込んだそうだが、天槻先輩はその上で更に石川県の選抜に入り、全国大会まで出場しているのだ。
「泉君、それはあくまで去年の話でしょう。去年の朱緒先輩だって、唯が感激するくらいだから素敵な演奏を披露したんだと思うけど、それから一年も経つんだよ?劇的な進歩を果たしていてもおかしくはない。去年の天槻先輩がどの程度だったのかは興味ないけど、一年間で朱緒先輩がそのレベルを超えているに決まってるよ。」
 さぞつまらなさそうに吐き捨てるのはやはり日宮さん。この人はどうも、天槻先輩を蛇蝎の如く忌み嫌っている気がする。理由は分からないんだけど。
 でも日宮さんの言葉ももっともだ。一年前に成績で差がついているからといって、その数ヵ月後から幽霊部員になってブランクを作った天槻先輩と、毎日休まず(多分)練習に励んでいた朱緒先輩。比べて一年前と同じ結果になるとは限らないし、寧ろ逆転していても驚かないだろう。これは今さっき朱緒先輩の演奏を聞いたからかもしれないけど。
「そうだ唯、去年の声楽コンクールで一位獲った人なんだけど、覚えてる?」
 鬼の首を取ったような口調で、日宮さんは梓に向き直り言うのだった。確かに梓は去年の声楽コンクールを聴きに行っているから、天槻先輩の演奏を耳にしているはず。でも、その梓から出る名前が朱緒先輩ばかりだから、おそらく梓にとって天槻先輩の印象は薄いのだろう。そして印象に残らないと梓が言うのなら、天槻先輩の演奏など程度が知れる……日宮さんはそう考えているんだろうな……
 先輩達は何も言わない。目が泳いでいる、とまでは言わないけれど、どこか落ち着きがない。音楽室ってこんなに広かったっけ。そんな益体もない事を思ったりする。さて、当事者の梓はと言うと。きょとん、とした表情で日宮さんを見つめていた。
「一位の人?あれが天槻先輩?今とは随分雰囲気が違うんじゃないかな?」
「てっ、……それで唯、どんな演奏してたのよ天槻先輩は?」
「なんだろ。なーんてーか……キラキラしてた。」
 ……キラキラ?
 そう言えば夏先輩に対する感想もそうだったけど、こいつの評価ってちょっとズレてんだよな……
「うん、キラキラ。楽しそうな歌を女の子、女子高生が歌ってんだよ?蓮花と夏先輩には話したけど、ああ泉もいたな。私が声楽コンクールに誘われた時って、すごく落ち込んでた時だったんだ。だからそういう、キラキラって感じがする演奏は……今だとそうでもないんだろうけどさ、その時はどうしても受け容れられなかったんだ。」
 眉間に皺を寄せ、記憶を手繰りながら言葉を選びながら梓は語る。
 思い返せば梓が評していた朱緒先輩の演奏は「人を元気にさせる演奏」だった気がする。なるほど、気が滅入っていた時に印象に残るのはそんな演奏なのかもしれない。
 そしてこれは。
「言っちゃあなんだけどさ。生意気な女子中学生の反感を買う程度には、天槻先輩の演奏は光ってたんだよ。外国語で何を歌ってるのか分からなくてさ、その辺が余計にネガティブな想像力を刺激してくれたりもしてね。」
「去年の冴さんって何歌ったっけ?」
「ラヴィオレッタでしたっけ?キラキラ、ですかねぇ。」
「それ山際さんじゃない?モッラー、はその前だっけ?」
 なんか色々あるみたいだ。兎に角、天槻先輩の実力は、少なくとも一年前に関して言えば、本物だったと言えそうだ。
「……声楽で上等な演奏が出来れば、冴さんも戻ってきてくれる、かな……」
 何処かから声が聞こえた。誰かが何かを言ったらしい。誰なのかは分からなかった。
「こうして話していたら良い時間になってしまいましたね。そろそろ後片付けしておかないといけません。」
 おっと。色んな発見に驚いていたら時間が駆け抜けていったらしい。僕達は音楽室を片付け、第二講義室へと戻る。
「あ、そうだ。今日自主練習にまで来てくれた二十五期の皆には、私から飴ちゃんをプレゼントするよ。」
 そう言って朱緒先輩はロッカーの自分の鞄を探る。が。
「あーりゃ。二つっきゃない。もう切らしてたっけな。」
 手元にある二つの飴と、僕達二十五期を交互に見つめる朱緒先輩。くれると言うのなら欲しいけれど、この場合は……
「それでは僕は結構ですので、日宮さんと梓にでも差し上げて下さい。」
 レディーファーストの精神だ。今日の僕は紳士的だ。
「じゃあさ泉君。僕と一緒に飴を買い出しに行こうよ。折角だし僕も常備したくなったんだ。泉君にはそれをあげるよ。」
 うん?宝屋の妙案を検討してみる。急いで帰る予定もないし、片付けさえひと段落付けられれば宝屋に付き合うのもアリかな。そう言えば宝屋と二人で話す機会は初めてだと思う。
「あ、私もついて行っていいかな。私の手持ちの飴がなくなった訳だし。」
 と、朱緒先輩も同行する事に。同行と言っても近場のパン屋に行くと思うのだが。
「いや、今日は少し行ったところの薬局、あそこのポイントが貯まるんだよ。だからそこへ行こうと思うんだ。禄門先輩もそれでよろしいですか?」
「いいよー。……宝屋君、主婦みたいだねぇ。」
「よく言われるんですよ。シェフみたいだって。」
 言ってねぇ。

 片付けを片付けて、僕と宝屋、そして朱緒先輩の三人は明澄高校最寄りの薬局・花岡薬局へと向かう。明澄のグラウンドは空いていたけれど、近くの別の学校では何校かの集合があったらしく、歩道すら混雑していた。
「うぇー。こりゃたどりつくまでに時間がかかるかも。」
「そうかなー。このくらいの人混みなら別に。ほら。」
 言い終わるが早いか、宝屋はするすると混雑の中に飛び込んでいく。いや、なんというか。
 混雑をかわしながら進んでいる、とでも表現すれば良いのか。宝屋の長身は実に目立つ。体格が良い訳ではないけれど、それでも一般的な男子の高校一年生よりは大柄な宝屋が、人混みに歩調を狂わされる事すらなく進んでいく。
「なんだあいつ、忍者か何かじゃないのか?」
「ははあ。宝屋君の感覚の秘訣はこれだね。」
 隣を見ると、呆れ顔の朱緒先輩が見えた。なかなかに表情を読み取りにくい先輩ではあるものの、声の調子でなんとなく分かる。小説や漫画じゃあ表現できないところだ。いやあ仕方ない。
「宝屋の感覚、といいますと?」
「うん。音楽経験がないにしては、宝屋君て妙に音感が鋭敏だなーって、ずっと思ってたんだ。で、今日宝屋君の、例えば私の演奏に対する評価とかでもそうだったんだけど、『周りと合ってるか』を重要視しているようだった。
 宝屋君は私の目から見てもマイペースだけど、空気が読めないって訳じゃない。寧ろ、周囲の動きを把握する能力が高いんだ。だから人混みの中でも、何処に進めば誰ともぶつからないで済むかちゃんと分かってるんだ。
 そしてそれが合唱においても同様だったんだ。周りの音、自分以外の声や伴奏を聞いて、それに合わせる様に、と言うよりその動きを把握してその上で自分も先導できる様な歌い方が出来るんだ。」
 最後の方は、呆れているのか感心しているのか分からない感じで、朱緒先輩は軽く息をついた。
 いつだったかの、ああそうだ入部初日だ。最初の練習でグラウンドを外周した時の事を思い出す。二十五期の面子で、鍋島と梓が先導し、僕と篠瀬と向井とが速度を抑えて走った。日宮さんと宝屋は誰とも合わさず、自分のペースで走った。ただ、日宮さんは僕達の動きを把握すべく最初は僕や篠瀬と一緒に並走していた。つまり、終始誰とも息を合わさなかったのは、宝屋ただ一人なのだ。
 その時は、宝屋の走り方を見て日宮さんは顔をしかめていた。日宮さんの言葉で言えば、先導していくなり周りに合わせるなり、そう言った合唱に必要な要素が宝屋の走り方からは伺えなかった。それが日宮さんには不快に感じられたってところだと思うけど。
 僕は、次いで思い出していた。同日その後の練習を結局止める事になったきっかけを。それも、宝屋だった。全く疲れたように見えない宝屋が、休憩を求めてきたのだ。その時は宝屋の事をマイペースな奴だと思ったに留まったけれど、今にして思えば、奴なりに僕達の状態を察知し、適切な箇所で休憩をはさんだ、と言う事なのかもしれない。
「買って来たよー。」
「速っ!宝屋速っ!」
 いつの間にか飴を購入して戻っていたらしい宝屋と出くわす。
「朱緒先輩の飴の好みが分かりませんでしたので、適当に買ってきましたが。」
「えー私の分も?それじゃあお言葉に甘えて……あっ龍角散じゃん!じゃこれもらうよ?」
「ほら、泉君も好きなのを持って行くと良いよ。」
 そう言って僕の方にも飴の入ったスーパーの袋を差し出してくる。……まぁ合唱の練習を続けていくのに、飴はあるに越した事はないか。しかしどれが良いものか。朱緒先輩に訊ねてみようかな。宝屋に訊ねてみようかな。適当に選んでみるかな。
「朱緒先輩、オヌヌヌの飴ってないんですか?」
 迷っていたら、こんな事を朱緒先輩に訊ねていた……宝屋の奴が。
「特にどれが良いとか悪いとかって話は聞かないから、全く自分の好みで選んで良いよ。」
 自分の好みかァ。しかし僕の人生に飴って奴ァさほど登場してこなかった。飴に好きも嫌いもないというのが正直なところだった。
「では朱緒先輩、先輩の好みで言えばどれになるんですか?」
 また、訊きたい事を宝屋にとられた。
「うーん、やっぱりさっきもらった龍角散かな?そうだ。さっきくれたのを食べてごらんよ。宝屋君も、泉君も。」
 そう言って、三人で朱緒先輩オススメの飴を分けあった。味は、普通ののど飴と言った印象。やはり好きでも嫌いでもない味だった。
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