小説載せる予定が、気がつけば日記の溜まり場。 そんなもんよ。
どこへいくいく 一九の道
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今回の語り手はミユキです。
次回の語り手は和輝くんなので、更新前にちゃんと新風舎文庫紹介しておくぜ。

それではごらんくださいな。
六道異伝Ⅰ-2
        ミユキ

 人は……生きとし生ける者は皆、どうして食事をするものなんだろう。そんな、少し哲学的かもしれない事について考えてみたのはこれが最初ではなく、実は幼い頃から何度も考えてきた事なのだが、いつも満足できる回答が見つからなかった。蓋し、人は生きるべく食らう。ならば食らう以外の「生活のための前提」ってなんだろう。やっぱり動く事かな?だったら食べる事と動く事には何らかの関係が成立するはずで、きっとそれは動いた分は食べても良いという事なのね!……というのが毎度毎度到達する見解だったり。
 ぐぐううううう……!
「うぐう……。」
 わたしの思考を遮ったのは、わたしのお腹に住み着く怪物の鳴き声だったりして。正確には今も大声で喚き続けてぐぎゅうううううう。
「ミユキさま、こんな時まで我慢してるっすね……。」
「五月蝿いわね!一度決めたら最後まで貫き通すのがこのわたし!これしきでへこたれるわけにはいかないのよ!」
 それに実は食事制限を自らに課してから三日も経っていないからね、という言葉はボリュームを下げて口にしてみる。
「できない我慢を堪えて見せるのが本物の我慢よ!覚えておきなさぐぎゅううううう!」
「奈良の神主って奴っすね!といってもこの状況で堪え続けるなんて並大抵の事じゃないっすよ。」
 この状況、というのを確認してみる。場所は採石場。見渡す限り、ざっと20体くらいの同じ顔をした連中が飛んだり跳ねたりわたしに蹴られたりしている。魔界にいた頃はモンスターにもバリエーションがあったものだが、こちらに戻ってから出会う敵はバリエーションに乏しい。いわゆる一つの戦闘員と言う方々なのかしら。
「イイーッ!」
 その中の一体が飛び掛る。わたしは身を屈め、真一文字にカタナを閃かせる。飛び掛ってきた奴を打ち落とし、後ろにいた数体をまとめて吹き飛ばす。……まだ数がかなり残っているわね。わたしは側にいる唯一の味方である、フリーターのカイザルに目を配る。
「もっとましな紹介できないっすか!?」
 カイザルは戦闘員数体をまとめて持ち上げ、力任せに他の戦闘員へ投げつけると言う豪快な技を見せてくれた。
「よくそんな重たいもの持てるようになったわね。」
「こっちの重力に慣れる訓練を積んだっす。これでただのフリーターとは言わせないっすよ!」
「甘いわね。一芸がないとフリーターなんてやってられないもの。今ようやくあなたは他のフリーターに追いついたのよ。」
「そ、そうだったっすか?フリーターの道は険しいものっす……。」
 本当に大きな衝撃だったらしく、カイザルの顔が蒼白になる。確かにこちらの重力に彼が適応するには並々でない努力が必要になるのだとは思うけども、まさか履歴書に「重力に負けません」などと書いてくるフリーターはいないだろうから、わたしの指摘は間違ってないはず。
 そんなカイザルがかつて魔界四天王として華々しく活躍していた(はずの)魔界は、わたし達が生活する世界より重力が小さかった。おかげでそっちに召喚されたわたしは英雄的活躍を果し数々の伝説と感動の物語を魔界に残し、魔王ともばっちり戦って本物のドラゴンまで見てきたりする。
 気が付くとカイザルの説明からまったく離れていたので、話を戻してみる。カイザルは筋骨隆々とした大男で、今日も上下のジャージが汗に輝いてかぐわしい香りを辺りに振りまいている。上司である魔王に大きな借りを作ってしまったがために、しばらくはただ働きを余儀なくされた救われない男だ。えっと、それがどうしてわたしと一緒にいるんだっけ?
「ミユキ様!まだ敵は残ってるっすよ!油断なさらないで!」
 そうそう。いつからかわたしがこの戦闘員に狙われ始めて、魔王が護衛にと言う事で寄越してくれたんだっけ。
「しかしこいつらは何なんすかねえ?」
「この前、口のきける奴が『地獄の亡者』とだけ言ってたわよね。あんた魔界四天王なんだし、地獄について何か知らないの?」
「地獄と魔界を一緒にしてもらっても……」
 言われてみれば確かにそうか。わたしは固よりカイザルにも地獄の事情が把握できていない以上、たとえこいつらが本当に『地獄の亡者』であったところで、結局正体はわからないままだ。わたしはカタナを翻す。
「斬るべし斬るべし!」
 しかしながら亡者達はどうにも歯応えがない。こちらとしては喜ぶべきところだろうが、どうせならわたしにかかってきても無駄だと、そろそろ理解してもらいたいものだ。一度に五体ほどまとめて撃破する。
「ところで、どうしてミユキ様はカタナを横に振る技ばかり使うっすか?」
「良い質問ね。袈裟斬りや逆袈裟は腕の力とあとは腹筋背筋を使うのよ。つまりやり過ぎると腕が太くなっちゃうわ。これに対し横薙ぎは腰を回して遠心力に任せてカタナを振るう技。腕を太くする事なく、更に腰の運動が出来ちゃうから、腰が細くなるのよ。」
「こんな状況でエクササイズっすか!公私混同っす!」
 別に戦闘は公事ではないって。どうもカイザルには地味な間違いが多い。最近覚えた単語を無理矢理使用しているような感じがする。さっきの『奈良の神主』もそうだし。蛇足しておくと、『ならぬ堪忍するが堪忍』という言葉を聞いたら『奈良の神主』と聞き間違うというのが落語界の常識。カイザルは何処でそんなやり取りを耳にしたのだろう。
「だいたいそのカタナ、俺のカタナじゃないっすか。なんでミユキ様が持ってるっすか?」
 カイザルはわたしの手にしているカタナを恨めしそうに見ている。彼の言う通り、これは元々魔界で彼が使用していたものだったりする。彼がカタナを手放したと聞き、海より広い心を持つわたしがなんとか探し出してみたものの、彼に渡す前に亡者達に襲われてしまい返しそびれ、以来こうして使っていると言う筋だ。
「そう言えば、このカタナ立派に見えるけど、名前とかあるのかしら。」
「家宝っすからね。でも昔の魔族の言葉でつけられていて、覚えにくくてしょうがなかったっす。それより返して下さいよ。」
「あのねえ、そんなに大事なものなら手放したりしないの。第一名前も覚える気がないなんて、大切にする気ないんじゃない。」
「ぐすん……あ、ミユキ様、後ろ!」
 わたしはS村か!とか言いたくなるが、カイザルの顔色が急変していたので、言われるままに振り返る。
 ───カラスが飛び掛ってきた!
 振り払おうとすると、カラスはいきなり姿を変え、亡者となってわたしへ襲い掛かってきた!
 しまった!完全に虚をつかれたわたしは、動く事すらできずにいた。カイザルが走ってくる音が聞こえるけど、明らかに亡者の方が間合いを詰めている……どうする!?背に腹はかえられない、ここは瞬間移動で回避して体勢を立て直す他ない!
 間に合って……!そう願うわたしの目の前、亡者は炎に包まれた。
「……え?」
「ミユキ様、魔法を使ったっすか?」
 カイザルがわたしの肩を捕らえるが……わたしじゃない。近くに誰か、魔法を使える誰かがいる。そしてその人物は、わたしを助けてくれた?急いで辺りを見回すものの、採石場に亡者以外の姿はない。一体の亡者が、両手を天に掲げる。……やばっ!こんな事なら余裕を見せずにさっさとエクササイズがてら倒すんだった!
「エクササイズは欠かさないんすね……。」
「そんな事よりカイザル!何か来るわよ!」
「き、気をつけるっす!」
 どう考えても気をつけようがない気がするが、その辺りは気をつけるだけ気をつけてもらうしかない。くだんの亡者は宙に浮かぶ。すると、残った亡者達の足元に亀裂が走り、飛び上がった一体を除く亡者は全てクレバスに呑み込まれ、そして……地割れが閉じていく。最初の亡者が着地する頃には、地面は何事もなかったかのように、完全に閉じてしまっていた。
「ミユキ様、あいつ、どういうつもりっすかね?」
 カイザルが半分びびりながら尋ねてくる。徐々にへっぴり腰になっている気さえしてくる。少し元気を取り戻させてあげようか。見ていて情けないし。
「攻撃失敗して自滅したって口じゃないの?」
「なんだ。ただの間抜けっすか。」
 自信を取り戻し、体勢を直すカイザル。うん、わたしもカイザルの扱いを覚えてきた。
 わたしが言った冗談が的を射ている可能性も少しはあるけど、相手もそこまで間抜けではないと思う。わたしが思うに、あの亡者はわたし達のどちらか、または二人ともに用があり、邪魔だった他の亡者達を片付けたってところね。でも、あいつが敵なのか味方なのか、そこまでは分からない。わたしはカタナを握る手だけを緊張させる。
「亡者の中には、今のように姿を変えたり姿を消したりする者もあるようです。油断なさらないで下さい。」
 亡者が口をきく。まだ敵か否か判別できないが、ん?この声って?
「そう固くならないで下さい。私ですよミユキ様。」
 その亡者はフランクに話しかけながら、姿を変える。というより、戻している、と言った方が正確だろう。その姿は、わたし達にとって馴染みの深いある人物のものだった。カイザルがその名を叫ぶ。
「お前、シリウスじゃねえか!」
「逞しくなったなカイザル。そしてミユキ様。お久し振りです。」
「あんた誰よ。」
「そんな!私ですよ私!シリウスです!シーリーウース!私のプロフィールも地の文で紹介してくださいよ!」
「そもそもあんた今何やってんのよ。」
「おほん。まだまだ現役でダーラ=ケントインティサンド国で一番の宮廷魔法師ですよ!ってあれ?私が言ってはなんだか我の強いキャラクターに見えるじゃないですか!」
「知らないわよ。それに貴方が本当にシリウスだって証拠がないと、怪しくってろくにボケ倒す事も出来ないじゃない。」
「あれはわざとだったんですか……ところでこういうやりとりは第一章とかぶるのでさくっと済ませたいと作者も読者も思っていますよ。」
 なんだかよく分からないような、ていうか分かりたくもない事を言い出したシリウス。
「人の目を気にする余りに大切な物を見失ってはいけないのよ。そんな事では優れた政治家にはなれないわ!」
「誰も政治家になろうとは言ってないっすけどね。」
 気が付くとカイザルもツッコミに回っている。
「とにかく、信用できない相手をシリウスと信じて仲間に入れて弄ぶのがどれほど危険な事か分かったものじゃないわ!」
 じゃあ仲間になれば弄ばれるんすね、というカイザルの言葉がシリウスに届いていない事を祈るとしよう。
 ほら、貴方も祈って祈って!
「ところで、かぶってるって言っても第一章はどの様に解決したの?」
「主人公が昔の知人に迫られて半ば強引に認めさせられたようなものでしたよ。」
「何よその主人公。意志薄弱なオールドタイプじゃない。ノーと言えない日本人なんて言われてた時代は終わらせなくちゃいけないのよ。これからの日本人はもっと自己をアピ-ルしていくべきなの。やっぱりわたしがちゃんとしてないといけないのね、よく分かったわ!」
「俺、そっちの主人公と仲良くしたいっす……。」
 どういう訳か、カイザルが涙を流し始めた。わたしの演説に心を打たれたのかもしれない。
「さて、シリウスはどうやって自己証明をしてくれるのかしらね。言っておくけど、強引に認めさせようったってそうはいかないんだから!」
「まだ話が続いていたんですか?第一ミユキ様を強引に説き伏せるなんてどんな者であっても不可能ですよ。」
「あ、シリウスには自爆魔法を覚えておくように言っておいたわ。もう覚えた?」
「できませんって言ってるじゃないですか!それに自爆したら証明できても死んでしまってます!」
「まぁこの反応のしようはきっとシリウスよね。」
 だったら初めから信じてくれよと言わんばかりのシリウスとカイザル。
 そろそろシリウスの説明もしておこう。シリウスは、名前の長い国(ダーラ国)の宮廷魔法師でありながら、その正体はかつてわたしが戦った魔王だったりする。魔王がシリウスなのか、シリウスが魔王なのかはわたしには分からないんだけど。とにかく同一の存在なのだ。そうなると魔王の説明も必要なのかしら?
「ところでシリウス。お前はどうして俺達の元へ来たんだ?」
 カイザルは未だにシリウスの正体が自分の上司だと気付いてないみたいで、偉そうな口の利き方を正さない。シリウスもそれを気にしない様子だから、気が付かないのも無理はないけど。
「直接賜った訳ではないのですが、これは魔王の意向のようです。」
 ……つまり自分の考えなんじゃないかというツッコミはカイザルがいる手前控えた方が良さそうだ。
「かつて私の弟子であった……いえ、魔王の手下だったエリーナが私に知らせてくれたのですよ。ミユキ様の身に危険が迫っていると。」
「エリーナどのが?」
 放っておくとどんどん新しい名前が出てくる。説明する身にもなって欲しいものだ。エリーナさんは魔界四天王の一人なので魔王の配下。但しシリウスと一緒にわたしの前に現れた時は、まだシリウスの正体が明かされる前だったから、シリウスの弟子と言う事になっていた。今のシリウスの話を聞く限り、エリーナさんは魔界四天王の肩書きを隠して人間であるシリウスの弟子となり、シリウスにそれがばれてしまったと言う設定に変わっているみたい。複雑と言うか、滑稽と言うか。
「カイザルも魔王に言われてわたしの護衛をしているのよね……魔王は今回の戦闘について何か知っているのかしら?」
 と言いつつ、魔王であるシリウスに意見を求めてみる。もう何をやってもコントとしか思えない……。シリウスは大仰に腕組みをして唸る。
「エリーナによると、どうやら魔王も何者かに襲われているようです。」
「え?魔王が?」
 シリウスは静かに頷く。
「魔王を襲った連中は、ミユキ様にも刺客を送っている事を白状したそうです。それで頼りの部下をミユキ様の元へ遣わせたとエリーナは言っていました。」
 その言葉を聞いて得意になるカイザルだけど……本当は魔王に借りがあって無料で仕えてくれるのが都合良かったからに決まっているので、悲しくなってくる。頑張れカイザル。
「で、シリウスまで寄越したって事は何?カイザルだけじゃ心許ないと魔王は言っていたのね?」
 カイザルはしゅんとする。頑張れカイザル。
「魔王を襲う部隊が増えたそうです。それで、ミユキ様に向かう敵も増えるかもしれないと魔王は考えたのでしょう。魔王がミユキ様と合流できれば敵を倒すのは簡単ですが、ひとところに標的を固める事が向こうの狙いかも知れず、魔王もエリーナも動けません。ミユキ様の力になれるとすれば、カイザルを除けば私かIRGMTという事になるのでしょうが、IRGMTを監視下から外す事は危険ですからね。」
 IRGMTと言うと……えっと……
 可愛らしい男の子だ。名前をシェリーちゃんと言う。
「……次世代を担う人類、一人しかいないから人間と言った方が良いでしょうか。って、やっぱり私が説明してるじゃないですか!」
 シリウスがぼやく。仕方ないじゃないの、覚えにくいんだから。
「その意味においてIRGMTは、今の生物の絶滅を考えていましたからね。非常時といえど、魔王が己の監視下から離れさせるのを拒むのも無理からぬ話です。或いはIRGMTが敵の目的なのだとすると、尚更自由には出来ませんね。」
 シリウスは一人頷く。
「しかしどうしてお前がIRGMTの事を知っているんだ?」
「……。」
 思いがけないカイザルの質問に、シリウスは固まってしまった。さあどうするシリウス。私は温かく見守るとしよう。
「勿論知っているさ。エリーナから万が一IRGMTが城の外に出た際の対処法として、奴の弱点を含めて教えられている。実際にこの目で見た事はないが、大体の情報は知らされているはずだぞ。」
「ふうん。エリーナどのもやっぱり魔王様を完全に信頼しきってはいないって事か。」
「……。」
 無言で口を開閉させるシリウスの姿は、まるで腹話術の人形のようだった。カイザルって、鋭いんだか鈍いんだか。そのカイザルが周りを見渡す。わたし達が倒しそびれた亡者達は全てシリウスが地割れに閉じ込めたから、今残っているのはわたし達だけ。
「人がいないところへ誘導したから良かったけど。」
「え?ミユキ様は普段からこういうところで暮らしているのではないのですか?私はてっきり……。」
 そんなわけないでしょ!と言いかけた……その時!

「活!活!」

───!
 急にどこかから大きな声が聞こえてきたと思った矢先、わたし達が既に倒した亡者達が息を吹き返し始める。傷口が塞がり、分断された手足も元通りにくっついていく……ちょっと!何よこれ!
「な、なんだあいつは!」
 カイザルの怒声!彼の視線の先には、砂塵が高く舞っていて、その中に更に亡者がいるみたい。……いえ、その亡者達に囲まれるようにして、一人様相の異なる奴がいる。
 服装は、何て言うか黒っぽい。どこかの部隊の制服、或いは軍服みたいな恰好。カイザルにも見劣りしないような、大柄で屈強そうな男だった。わたし達の方を見て口元を緩めているけど……顔に生気が感じられない。
「ミユキ様!」
 ……えっ?
 何が起こったのか分からない内に、わたしの身体は地面に倒れていた。どうやら、これはシリウスに突き飛ばされたみたいだけど……シリウス!
 彼は亡者数体の体当たりを喰らっていた。そんな。もしわたしの身体がシリウスに突き飛ばされていなかったら……
 ……少し痛かったかもしれないって程度だわ。
「でも、わたしの仲間を傷付けるなんて許せないわ!カイザル、まずは近場の亡者を片付けるわよ!」
「おうっす!おらあ、シリウスの弔い合戦だ!」
「私は死んでないっ!」
 とか言っている間に、一度倒した分の亡者達を……わたしが斬り伏せ、カイザルが投げ飛ばし、シリウスが冥福を祈る。勇者と元魔界四天王と宮廷魔法師のコンビネーションに隙などないのだ!
 さて、残るは新しく現れた者達……わたし達は揃って、あの黒い服の男を見る……
「活!活!」
「……!う、嘘でしょ!?」
 黒い服の男がその言葉を口にすると、さっきも見たように、倒したはずの亡者が蘇っていく。驚愕するわたし達の中で、シリウスだけが冷静さを失わず、わたしに耳打ちしてくる。
「キリがありませんよ。どうやらあの男を倒さない限り、亡者を倒す事は難しいようです。」
「その男の言う通りだ。」
 黒い男が高らかに言う。続いて腕を回すようにして、手で合図でも送るように動かすと、亡者達の動きが止まった。
「自分の立場と言うものを理解してくれればそれで良い。分からないと言うなら続けさせるが、どうするかな?」
 表情に大きな変化はなさそうだったが、どうやら相手は既にわたし達を封じたと思い込み、得意になっているらしい。そしてそれは、わたし達が動かないのを見る事で増長される。
「賢明な選択だ。私も時間をかけてはいられない。用件を言うとしよう。」
 それまで漠然とこちらを見ているだけだった黒い男は、わたしを睨みつける。
「我々の目的は世界を一つにするという究極魔法にある。」
 ……究極魔法……と、彼は言った?
 久し振りに耳にする単語だが、そんなものは最早この世界においては必要のない代物(物じゃないか)のはずだ。世界を元ある姿へと戻す究極魔法は、それ自体は成就しなかったとは言え、別の手段によって同じ効果が世界にもたらされているのだから。それに、究極魔法を扱える存在は魔王のみ。確かに、今現在魔王がこの黒い男の仲間に襲われている点は説明できるものの、わたしが襲われていた点については説明がつかない。カイザルやシリウスが助っ人として合流する前からわたしは狙われていたのだから、わたしの確保も向こうの計算に含まれているはずだ。わたしを人質に魔王を脅す?それならもっと簡単に確保できる誰かを選ぶはずだ……カイザルとか。
「究極魔法を使える者は二人。現在の魔王たるゾルガディウスと……先代の魔王たるオダギリショウコだ。」
 ……!
 まさかこいつ、あの事を知っている?
 黒い男の言う通り、今の魔王以外にも究極魔法を扱える存在が残っていた。先代の魔王、ショウコさんだ。彼女はもう随分前に亡くなっているので、今更究極魔法を扱える人間として勘定するには無理があるというのが、本来のところ。しかし話はここで終わらない。
 ショウコさんは、ある物に自分の記憶データを遺していた。それをわたしが引き継いで、しばらくはわたしの中にショウコさんの意識が入っていた時期もあったんだけど……
 わたしは黒い男を睨み返す。
「残念ね!貴方達が何を知っていて企んでいるのか知らないけど、お探しのショウコさんなら、身体も意識も、もう何処にもないのよ!分かったらわたしにつきまとうのを止めて頂戴!魔王だけにしなさい!」
「そうだそうだ!魔王様にやってもらえ!頑固者だから無駄だと思うけどな!」
「そっ……そうだそうだー!」
 うむ、シリウスも空気が読めるようになったものだ。黒い男はと言うと、相変わらず表情を変えずに腕組みをする。
「お前達が役に立つかどうかは、こちらで判断する事だ。まずはオダギリミユキ、お前に来てもらう。」
「……って、わたしの名前を知っているの?だったら貴方も名乗りなさいよ!」
「……?」
 それまで表情を崩さなかった黒い男が、ここへ来て僅かに眉を顰めたように見える。
「解せんな。お前が私を名で呼ぶ必要が何処にある?」
「わっかんない事言うわね?相手の名前を呼ぶのに建前なんているの?それに、切り結ぶ相手に名乗りを上げるのは礼儀の一つよ。知らないというなら教えてあげるわ。カイザル!」
「もす!」
 ざっ、とカイザルはわたしの前に歩を進め、黒い男を見据える。わたしからではカイザルの後姿しか見えないのが口惜しい。
「燃え上がる勇気!迸る汗!元魔界四天王、カイザルっす!」
 そしてカイザルは身を翻し、ポーズを決める!
「俺、頑丈!」
「……か、かっこいいわ!さすがねカイザル!次、シリウス!」
 シリウスは非常に不安げな顔をこちらに向ける。
「今の、大丈夫なんですか?こう、版権的に。」
「魔法師ともあろう男が何を怯んでいるの!やりたくないならポーズだけとってなさい!口上はわたしがつけるから!」
「やらせて下さい。」
 多少間が悪かったものの、シリウスもポーズを取り、口上を上げる。普通すぎたのでカット。そして、わたしの番が回ってくる。相手はわたしの名前を知っていたが、手本を見せる意味で名乗らない訳には行かない。
「小田急線の『小田』、無桐伊織の『桐』、長門ミユキの『ミユキ』、三つ合わせて小田桐ミユキ!」
「……作者の嗜好が如実に表れてるっすよね。」
「第一、長門美雪はカタカナではありませんし。」
 むう、魔界暮らしが長いくせにミーハーなところを認識するとは何事だ!そんなけしからん二人はさておいて、わたしは黒男へ視線を投げる。今度はあちらのターン!といって見せたところで、黒男はゆっくりと頭を振った。
 これまでずっと表情を変えなかった男だが、ここで初めて表情を変えた気がする。上手く言えないけど。
「私の名は私にも分からんよ。自分の名を失って久しい。……これは当然のように名乗りなどあげるお前達には理解できぬ事かもしれないがな。私を呼ぶなら……そうだな、捨石とでも呼ぶが良い。」
「捨石?自分で名乗るにしては、随分ぞんざいな名前ね。」
「どうあれ私は名乗ったぞ。さて、それでは私についてきてもらえるかな。小田桐ミユキ。」
 黒男、捨石と名乗る彼がわたしを見つめる。わたしの横には、カイザルとシリウス。捨石に気付かれないように二人に合図を送り、わたしは叫ぶ。
「捨石!あんた達のやり方は気に入らないわ!自分の力を見せ付けてからじゃないと用件を言わないなんて、人に物を頼む態度じゃないわね!どうせわたし達を消耗させて、力づくで奪うつもりだったんでしょう?わたしも魔王も、あんた達なんかに絶対協力しない!ショウコさんだって同じ事を言ったはずよ!」
「うおおおおおおおおおお!」
 わたしの啖呵を合図に、カイザルが亡者の群へと突っ込んだ。残った亡者達を強引に薙ぎ払っていく。
「者ども!その男を何としても止めろ!……活!活!」
 カイザルが倒した亡者も、捨て石の呪文によって息を吹き返してしまう。確かにキリがないようにも見えるが……捨石にさえ攻撃が届けば亡者の再生は叶わなくなる。カイザルは無策で敵に向かっているんじゃない。わたしに道を作っているのだ!
「シリウス、頂戴!」
「了解です!」
 全ての亡者達は、カイザルが引き付けてくれている。その隙にわたしは、武器を用意させてもらう!わたしが構えたカタナに、シリウスが火炎魔法を放つ。炎がカタナを包み、なお赤く猛る。
 魔法剣!かつてわたしとシリウスは、この魔法剣で幾多の危機を乗り越えてきた!色んな敵を倒してきた!……と言おうと思ったものの、実際に倒したのはネオガイアシリーズくらいだった気もするわね。でも構わないわ!ハッタリも時には重要な武器なのよ!
「魔界のカタナと宮廷の魔法の融合たるこの魔法剣、斬れないものなど………………あんまりない!」
 ない、と断言するつもりが、考えてみれば結構斬れないものがあった。と言っても、あの時はこのカタナではなく伝説の剣を使っていたんだっけ。
「推して参る!」
 ここへ来てようやくわたし達の考えが捨石にも伝わったのか、亡者達にわたしを攻撃するよう命令が下る。でも、無駄ね!無駄無駄無駄!そんな事、この男が許すものか!そう易々と……カイザルは砕けない!
「俺、頑丈!」
 迫り来る亡者を押し払い、カイザルが道を開く。わたしはその後を追い、捨石との距離を詰めていく。あと少し。あと少しで、届く……今だ!
「ぐあっ!」
 カイザルの悲鳴?そんな!カイザルが……倒れるッ!?
 カイザルは実際には僅かに怯んだに過ぎなかった。しかしその僅かな隙を亡者達が見逃してはくれなかった。固より多勢に無勢の状況、一つのミスが文字通りの命取りになる……。
「油断したな小田桐ミユキ!私と来てもらうぞ!」
 得意になったように、捨石が叫んでいる。……油断した、か。ちょっと面白みに欠ける気もするけど、取り敢えず言い返しておこうか。
 そんな事を考えながら───わたしは言ってやった。

「油断したのは、あんたの方よ。」

 捨て石の背後から───わたしは言ってやった。
「何ッ!?」
「遅い!」
 相手の油断を誘ったところで、隙だらけとなった捨石目掛け、勢いよく魔法剣を振り降下ろす!……が、わたしのカタナは何かにぶつかって妨害される。捨石の奴、あっちも剣を抜いていた!体格差のせいもあって、当然わたしが弾き飛ばされる。
「後ろから不意打ちとはな。卑怯な勇者もあったものだ。」
「何言ってるの?不意打ちする気ならあんたに声なんてかけないわよ!」
「本当か?言い返した方が恰好が付くと思ったからじゃないのか?」
「そんな訳ないじゃないの!」
「……まあいい。」
 捨石は切っ先を下げる。構えを解いたようにも見えたが、剣以外の身体の型を見る限り、戦闘体制まで無効にしていない事は明白だった。わたしにだしぬかれたとは言え、一度完全に背後を取られているのだ。その辺りのからくりについて捨石がどのように分析しているのか知らないが、わたしに予想外の動きをされても柔軟に対処できるような体勢なのだろう。隙が全くない、戦士の構えだ。さっき油断していたところを突けなかったのはかなりの痛手だ。こうなっては……もう一度隙を作る!
 わたしは魔法剣の切っ先を捨て石の右胸目掛け突進する1
「万策尽きての特攻か!その意気や良し!しかし私に通用するかな!?」
 予想通りに、簡単に攻撃をかわす捨石。魔法剣は炎を帯びているから、受け止めるよりかわす方を選択するだろうとは思っていた。わたしとしては仕掛けた攻撃を仕損じた事になり、体勢が崩れても不自然ではない。そして捨石が冷静な戦士たればこそ、わたしの隙を突いてくるはず……。

「終わりだ!小田桐ミユキ!」

 ……計画通り!
 捨石が振り下ろした剣は空を切り、地面へと突き刺さる。捨て石の目にはわたしが突如消失したかのように見えている事だろうが……わたしはここにいる、捨石の上方!
「剣よ、光を呼べ!」
 そこから魔法剣を振り下ろす───!
 ザンッ!
 剣を握る捨石の両腕が切断される。胴体を狙わなかったのは、捨石に話してもらうべき事があったという理由以外に、さっきの蘇生の呪文のようなものが、腕がなくても使用出来るのか確かめたかったというのもあった。それに、彼自身にもその効果があるのか否か。もしかすると切り落とされた自分の腕をくっつけ、今までどおりに亡者達を復活させてしまうかもしれない。そうなると捨て石の胴体にも攻撃しなくてはならないが、それは急がなくて良さそうだ。捨石は膝を地面につき、黙ってうなだれている。
「さすがだな。私にわざと攻撃を仕掛けさせ、その隙をつくとは。しかしどうやって私の上を捉えた?あれが必殺技なのか?」
 言われてみればゲームの当身技のように見えたかもしれない。わたしが捨て石の背後や上方へ移動できたのは言うまでもなく瞬間移動のお陰なのだが、それはまだ教える訳には行かない。
「女性にあれこれ詮索するなんて、紳士のやる事じゃないわ。それより、あんたには色々話してもらうわよ。」
「こちらの質問に答えないで、そっちからは訊いてくるんだな。」
「それはそうよ。わたし勝ったんだもん。」
 ……しかし、おかしい。負けを認めるのが潔い、潔すぎじゃないかしら。それに、斬られた捨石の腕からは出血もない。血も涙もないって意味かしら。
「私に答えられる事は限られるよ。何しろ、捨石だからな。お前が切り落とした方の私の腕を見てみろ。」
 納得できないものの、言われるままにわたしが切り落とした方の腕を探してみるが、見当たらない。……いえ、確かに腕が落ちたはずの地点に、腕以外の何かがある。それは……石ころだった。わたしは再度捨石を睨む。
「あんた、何者?」
「私にも分からない。元の体も心も失って、ただ憎しみだけが石に宿った存在、それが私らしい。私の憎しみをこのような形で蘇らせた輩が、究極魔法の事を話してくれたよ。私が元いた世界も一様ではなくてね。究極魔法が扱えるようになれば、地獄と極楽の境も消え、地獄の不当な扱いもなくなると……入れ知恵されたのさ。」
 やっぱり捨石も地獄から来ていた……じゃない、地獄の誰かの生き写しって事になるのか。確かに捨石の言う通り、究極魔法は世界を一つにする切り札。地獄と極楽の話なんてよく分からないが、地獄と言えば悪人が苦しめられているところのはず。悪い奴のくせに究極魔法の力を借りて楽しようなんて虫の良い話だ。
「違うね。悪人がいるのが地獄なのではない。悪人と決め付けられた奴が放り出されるのが地獄なのさ。」
「何よそれ。確か、十回も裁判受けられるはずよね?それで一度でも認められれば転生出来るって本で読んだわよ。十王審判ってやつ。十回とも悪いと見做されて、それで冤罪だっていいたいワケ?」
「何の事を言っているのか分からないが、何度も裁判があったというのは随分昔の話だ。今では閻魔なんてモグリの奴もいるくらいだが、それでも裁判は一度きりだ。再審の制度も有名無実。地獄の沙汰もなんとやら、おっと、こっちの世界では知られていない文句だったかな。」
 ……。捨石の話を何処まで信用して良いのか分からない。仮に全てを信じるなら、地獄は不当な扱いを受けていて、そしてその実は極楽によって虐げられていると言うもので、究極魔法によって地獄と極楽の世界を一つにしてその差別を……違う。そんな状態で世界が一つになれば、地獄の連中が極楽の人達に攻撃を仕掛けるに決まってる。そうなれば、究極魔法は侵略の手掛かりとして使用される事になる。極楽の人達にも戦う手段があるのかもしれないから、もしかすると、大きな戦争を招くものになったかもしれない。
 わたしは確信する。究極魔法を守らなくてはいけない、絶対に!
「捨石、あなたに究極魔法について教えたのは誰なの?」
 気が付くと、捨石の腕が崩れていた。役目を終えた「捨石」は、元の姿に還っていく……。
「さてね。余計な知恵は捨石には宿されていない。元の私が持っていた恨み、憎しみさえあれば。そんなものに地獄を救う手段を教えさえすれば、すぐにでも飛び出していくに決まっている。私がそうしたように。だから、私の中には友人の名前も、恩人の姿も、何も残ってはいないのだよ。」
 そんな……それではまるで、本物の捨石。自分の目的の為に都合よく利用して、用がなくなれば捨ててしまう。そいつが利用しているのは単なる石ころなんかじゃない。人の思い。そんな、尊くてかけがえのないものを簡単に捨ててしまうような奴が究極魔法を狙っている……。
「しかしうれしかった。」
 捨石が呟いた。既に体の半分以上が石に戻っている。
 ずっと感情が読めないような顔をしていた捨石。憎しみ以外の感情を宿されていないと言っていた彼が、ここで、笑った。これで二度目。彼が表情を崩すのは、名前を名乗れとわたしに言われたときに続いて、これで二度目。
「お前は私に名を尋ねた。元の姿であった時も私は名を持っていたが、その名を呼ぶ者は殆どなかった。この世界は名前を尊重するのだな、どのような相手であっても。名前を地獄においてきたのが実に悔やまれる。」
 捨石の体が崩れていく。採石場にこうして初めからあった、名前のない石達と同じになっていく。もしかしたらここにある石の一つ一つにも名前や歴史があったのかもしれない。でも……語られない石達の言葉はわたし達には伝わらない。
──この世界で生きていたかったよ──
 捨石だったそれが、そう言った気がした。


「ミユキ様!亡者を全て倒したっすよ!これでシリウスも安らかに眠れるっす!」
「だから死んではおらぬよ!しかし勝手なアドリブを入れてくれたものだな。ひやりとしたぞ。」
「なに、相手の骨がなさすぎたからな。……あれ?ミユキ様、捨石の奴は何処っすか?」
 ……。
 カイザルとシリウスが合流したみたい。でも……しばらくはわたしは動く気になれなかった。振り向く事すら出来ない。
「シリウス、魔王に伝言をお願いできるかしら?」
「え?はぁ。いけると思いますが。」
 シリウスが素っ頓狂な声を上げる。あんた、魔王でしょうが。わたしは大きく息を吐き出し、告げる。
「究極魔法、絶対に守り抜いてと伝えておいて。」
「……分かりました。」
 本当に分かったのか分からない声で、シリウスは応える。或いは魔王として応えたのかもしれない。
 もうここにはいない捨石。彼を呼ぶ為の名前が分からない。わたしはひとかけらの石を拾い、握る。どの石を取ったところで同じ形をした石はそうそう見つかるものじゃない。当たり前の事に、なぜだか少し驚いた。掌の中の固い感触を確かめて、胸に誓う。
「守って見せる。」

六道異伝Ⅰ-2   了。
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