小説載せる予定が、気がつけば日記の溜まり場。 そんなもんよ。
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新風舎文庫コラボ小説、その名も『六道異伝』
2007-09-09-Sun  CATEGORY: 新風舎文庫(非公式)コラボ小説:六道異伝
新風舎文庫の紹介は小休止。ていうかこの小説を載せる為に紹介してきていたのだ。
これは、新風舎文庫の『魔王の復活』(及び『魔王の憂鬱』)、『閻魔の弁護人』、『ニシガミさん家のデス子ちゃん』、『娘々物語』を勝手にコラボしようと言う企画。
第一話第一章が『閻魔の弁護人』なので、作者の松山さんに見てもらいたかったのですが、諸般の事情により断念。すぐに書き改める可能性もいくらかあるという。

ネタバレには気を払っていますが、作者の目を通していませんので、なんとも。しかもルビが変な事になってる!
それでも見たい人はどうぞ!
六道異伝


第一話「魔王逃亡」
Ⅰ-1.藁掴(わらつかみ)

 東に向かって歩く事は、西にいる弱者を見放すと言う事だ。西に向かって歩くと言う事は、東にある不幸を見捨てると言う事だ。どっこい、俺の体は一つきりときた。そんな当然の事に気付いたのは、いつの事だったろうか。その時からだったろうか。「賢い」選択を心がけるようになったのは。
 何かを望む事は、別の何かを捨てる事だ。選ぶとは、そういう事なのだ。だから、その時俺は選んだんだったか。「多くを望み多くを諦める」より、「手離すものが少しで済むよう、何も望まない」道を。
 今はと言うと……昔とそう変わっちゃいないな。
 極楽裁判辺りのくだりで危うく前科者になりかけた俺ではあるが、今もこうして弁護人を続けている。絶体絶命の状況下で罰を免れたこの俺に、極楽の連中は「不死鳥の藁掴」という綽名をつけてくれやがった。こいつは地獄を渡り歩くにはひどく都合が悪い。そもそも不死鳥なんてもんは地獄じゃ評判がよろしくないからだ。俺が自らそんな二つ名を名乗る事はしないが、知っている奴は知っているらしく(字義通りの地獄耳と言う奴だ)、そいった連中が絡んだケースは理由もなく冷遇されるなど、大概面倒な事になる。はっきり言って邪魔でしかない二つ名だ。
 いくらやりにくくなろうと、俺がやる事は変わらない。餓鬼や畜生として扱われている連中が一方的に虐げられるというのは、善悪の話を抜きにして(そんな話をするのは極楽の連中くらいだし、中身のある話だとも思わない)やはり気に喰わない。弁護人制度が形を成してからは、ある程度こちらの主張も考慮してもらえるようにはなっているらしいが、俺に言わせればまだ全然だ。
 やる事は変わらない、これはいいとして、出来る事はかなり変わってしまった。例の二つ名のこともあるが、最大の要因は最終手段だった奥の手が失われた事だった。事実、今し方終えてきた依頼の中でも、開廷の少し前に襲撃を受けた時は少しきつかった。いや、ほんの少し、ていうか全然平気だったけど。まあきつい時はきついので、以前より多少慎重になる必要がある。いやほんの少し、ていうか全然だけど。
 ぼんやりと物思いに耽る内に、俺を乗せた車は大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)の閻魔宮殿へ到着した。般若湯(はんにゃとう)の叛乱の時期にいくらかの被害を受け、修繕が施された宮殿はかつてとはいくらか外観を異にしており、それ以前に宮殿の主が交代しているのだから以前と印象が違っていて当然だ。そして、相変わらず俺の事務所はこんなところにあったりする。新天地に構えるのは面倒だし、今のところ不便を感じる事もないからい続けているわけだ。待てよ?一つ不便に思うところがあった。俺は一つ大きな溜息を吐き出し、気を引き締めてから門をくぐった。
「お帰りなさいませ、ご主人様ー♥」
 ……いきなりか。耳も塞いでおくんだった。俺の姿を認めるや否や、宮殿の主が凄まじいスピードで俺目掛けて突っ込んできた。艶のある髪は猛ダッシュによる風の抵抗を見事に分散し少しも乱れていないが、喪服の様な黒い着物はそうはいかなかったらしい。ところで、俺の前で止まる気配がなかったのでひらりと身体を流してみた。二秒前には俺の体が立っていただろう空間を通過し、小娘は俺の後ろの門へ激突した。
「おい。どこであんな言葉覚えてきたんだ?」
 大の字でぺらぺらになって壁に張り付いている小娘をぺらりと剥がし、質問してみる。今の衝撃で傷を負わなかったところを見ると、ちゃんと体質改善は施してあるらしい。しかしこういう場合、怪我がなくともしばらくは身体が痺れて動けなかったりするんだよな。俺の目の前のぺらぺらも、数秒間は小刻みに震えていたが、ようやく口を開けるようになったらしい。
「はじめまして、そうでない方は、ご無沙汰しております。〝大焦熱地獄の食嬢(しょくじょう)〟の異名を持つ少女、河流(かわながれ)です。今回のお話でもよろしくお願いします。」
 ……誰に向かって話しているのだろう。頭でもぶつけたか?こういう時はもう一度同じ衝撃を与えれば元に戻るのだと相場は決まっている。もう一度こいつをぶつけるとなると門が壊れてしまいそうだが、その時は直せばいいだけだ。仕方ない仕方ない♪
「わーっ!藁掴さま、お助けを!」
 ……ち、戻っちまった。
「戻るも何も、私は初めからおかしくなんてなっていませんよ!」
 ぶーっと頬を膨らませる河流。いやいや、正気だったなら俺の質問に答えてくれ。するといきなり怒られた。何故だ。俺が悪いのか?
「そうですよ!私は藁掴さまに長旅の疲れを忘れていただこうと体を張りましたのに、ひどすぎます!」
「余計に疲れさせてくれた割には言い様だな。結局、さっきのは誰の入れ知恵だ?」
「この恰好でわかりませんか?明鏡止水(めいきょうしすい)さまですよ。あのような出迎えをすれば、きっと藁掴様はメロメロのウハウハ、私を撫でてくれるでしょうと仰っていました!」
 ……それでいいのか河流。
 ちなみに明鏡止水とは、この宮殿の前の主に当たる。そうか。しばらく会っていないもので失念していたが、明鏡止水は普段黒い服を着ていたか。言われてみれば、河流が着ているその服はかなりぶかぶかだ。乱れて見えたのはその為なのかもしれないな。そんな恰好であれだけの速度を出せるに至った河流の成長には涙が出てくる。同時に、服を変えただけで万全だと考えたその頭脳にも涙が出てくる。体格も髪形も違うのだから、これを無理と言わずに何と言おう。成長したのか脚力だけか?
 そうではない事は、実は俺がよく知っている。この宮殿の主という事は、彼女はこの大焦熱地獄を支配する者、つまり八大地獄の一つを支配する八大閻魔の一人なのだ。ただの大喰らいの少女がそれほどまでに出世する。並の努力では考えられない話だろう。そして彼女が目指す道もまた、険しい道のりなのだ。俺は、失うのを恐れて何も望まない事を選んだ。彼女は多くを救う為に、多くを望む事を選んだ。無理を通せば道理が引っ込む。その逆もまた然り、それどころか一層の困難を伴う。彼女が道理を立てるには、無法の地獄に星の数と下らない無理を引っ込めなくてはならない。俺にはそんな事が可能だとも思えない。しかし、もしそんなことがあれば───確実にこの六道は変わる。理不尽な差別もなくなるのかもしれない。
 改めて河流の顔を見る───
「ご主人様ー。」
「俺の尊敬の念を返せ!それ以前に此処の主人はお前の方だ!」
「ぶぅ。えっと……あ、『藁掴さまは、素直じゃない』です。」
 明鏡止水め……奴は河流をどういう方向へ成長させたいのだろう。なんかもう、こいつはいい玩具だな。待てよ?それって俺も含まれているのだろうか。
「さあ、藁掴さまの心の保養はこのくらいにしまして、本題に入りましょう。実は、お客様がお見えになっています。」
 逆に疲れたと言ってるだろうが。それに、お客様?依頼人じゃないってのか?話の流れから察するに、明鏡止水が帰ってきたのだろうか。河流は宮殿の奥へと俺を案内し、やがてある自由扉の前で足を止める。此処は……昔池があった辺りだから、この先は外に出る事になるんじゃないか?俺の心配を他所に河流は扉を押し開ける。その先にいた人物……。
 微風に舞う薄紅の装束。ところどころに破れた跡がうかがえる。漆黒の髪に白磁のような腕、小柄な少女。その姿は俺の知る一人の少女の姿と重なるが……そんなはずはない。彼女が地獄に、俺の前に再び現れるなど、ありえない事だ。だからこそ確信する。今俺の前にいるのは、その人物の側近の、変装……いや、変化の能力に長けた男なのだと。
「タチの悪い冗談は相変わらずだな、策溺(さくおぼれ)。」
 池の水面が煌き、そいつの表情を読み取らせにくくしている。が、奴は笑ったように思えた。
「相変わらず賢しい方ですね。彼を呼んできて正解でした。」
 そいつの後ろにあった変な形をした植物が不自然にうねり、次第に人の形へと変化していき……やがて俺の知る策溺の姿となった。という事は、あの少女は策溺ではないという事か?だが、彼女が俺の知る少女ではない事もまた事実のはずだ。
 その少女は、廻灯籠(まわりどうろう)は……。
 俺は何とか言葉を切った。河流の姿が目に映ったからだ。あいつの前で迂闊にあの話をする訳にはいかない。
「藁掴さま!よくご覧になって下さい!どう見てもまわりんですよ!」
「なんだ?まわりんって。」
「明鏡止水さまが、廻灯籠さんの事をそのように呼びなさい、と。」
 ……奴は『閻魔の弁護人』のメインキャラ勢を何だと思ってるんだ?
「あと、自分の事は『お姉ちゃん』と呼びなさい、と。」
 それは『閻魔の料理人』の設定じゃねえか。
「藁掴、まだ私が本物のまわりんであると信じられませんか?」
「あんたもその綽名使うのかよ!」
「不死鳥の誰かさんよりは愛嬌もありましょう?」
 ぐさっ。
「とにかく、俺は本物の廻灯籠と話をつけたんだ。あいつがこんな所にいるはずがない。第一、変身能力に長じた奴は策溺以外にも沢山いるんだろ?」
「それなら、いくらでも確認して御覧なさい。」
 ……は?事態が把握できないでいると、廻灯籠が俺に近寄ってくる。池の水面の煌きが彼女の顔に妖しく映る。
「貴方は以前、策溺の変装を看破していますね。その時のように、私に手を出して確認すれば済む話です。」
 廻灯籠の恰好をした彼女は、気付くと俺の目の前まで迫っていた。彼女の言う通り、確かに俺は策溺の変装を看破した事がある。その時は確か、相手の腕を捻り上げたはずだ。目の前にいる少女が廻灯籠であるはずがないのなら簡単にその程度済ませられるのだが、万が一にも彼女が本物の廻灯籠であったなら……俺、お陀仏。
「とは言え、私も乱暴なやり方は好みません。出来れば、優しく……して下さいね?」
 彼女の顔が迫る。彼女の髪が俺の目にかかり、彼女の息が俺の顔に当たる。……ふと、別の視線に気が付いて顔を上げると、策溺と目が合った。あいつはこちらを見て……いや、明らかに俺の方を、しかも敵意を持って、ともすると殺意まで持って睨んでいるのだ。ものっそい睨んでいるのだ。その眼差しが訴えるもの……あいつは偽者の変装がばれるのを恐れているんじゃない。廻灯籠に万一の事がないかを恐れているのだ。指一本でも振れてみろよコノヤロウ、なんて事をあの目は言っているんだ間違いない!
 部下に本気で心配かけられているくらいだから、どうやら本物みたいだな。納得はいかないが。
「分かった分かった。疑ったりしない。あんたは本物の廻灯籠だ。」
「意義あり!藁掴さまはまだ直接確認していないでしょ!」
 ここで河流!?お前はどっちの味方なんだ!
「経緯につきましてはこれから話しますが、本人確認が済みましたようで何よりです。こちらも、今の反応で貴方が本物の藁掴であると確認致しました。」
 さらっとすごい事を言って俺から離れる廻灯籠。どこまで本気なんだろう。全部冗談なのだろうか?俺は本物の彼女にどう思われていたのだろう。と、それは置いて。問題はどうして彼女が俺の前に現れたのか。廻灯籠は指を三本出し、理由は三つあると答える。
「一つは、あんたがいないと『閻魔の弁護人』キャラが少なくなっちまうからか?」
 まさかとは思うが、というよりそれはあって良いのだろうかと思ってしまうが、一応訊いて見た。廻灯籠は微笑んだまま、しかし策溺はこれ以上にないくらい慌てふためく。……図星かよ。俺の近くにいる少女は文面を理解できなかったらしく、首を左右に傾げ続ける。さすがの明鏡止水もこういう事は教えなかったらしい。
「一つは貴方にお願い事をする為です。これも後回しにさせてもらいます。理由の最後の一つは……阿弥陀如来(あみだにょらい)との約束です。」
「阿弥陀如来だと?そいつは妙だろ。あいつは俺が弁護人として復帰する頃にはもう、死んでいたって話だろ?」
「藁掴さま藁掴さま。」
「ああ?」
 河流が俺の服を引っ張る。俺が気付くと、咳払いをして得意満面にこう言った。
「地獄で死ぬのは、難しいんです。」
「……。」
 それ俺の台詞だしあいつ死んだの地獄じゃねーし得意になる必要が全くねーしと突っ込みを入れまくりたかったが、ふと気付く。こいつの言う事に一理あったからだ。あいつを滅却してしまうほどの存在など、余程の自然災害くらいしか思いつかない。何者かに殺害された可能性など皆無。だからこそ俺は、あいつは自殺したものだと考えていたのだが……。
「彼の死に事情があったにせよ、それは私の与り知るところではありません。彼が『死んだ事』なる前、阿弥陀如来は私が身を投じた彼の地へ来たのです。死期を予期していた様子でした。先程は私と彼が約束したと言いましたが、実際は彼の懺悔を私が勝手に聞いていただけです。よもや彼も、私に声が届くとは本気で信じてはいないようでしたから。」
 そりゃああんな所、用事もないのに行きたくはないな。
「勿体つけないで教えてくれ。阿弥陀の奴は何を言った?『無量光(アミターバ)』でもせがみに来たか?」
「まさか。謝罪の言葉でしたよ。私と、それと『無量光』に対しての。」
「無量光に対しての?」
 廻灯籠は静かに頷いて見せるが、俺はやはり疑うしかなかった。無量光と言うのは何者かの名前ではない。道具の名だ。兵器の名だ。叛乱の際にも、またそれ以前にも多くを破壊し、ことごとく殺し、奪い、滅ぼしてきた「極楽」の兵器。そんなものに対して、阿弥陀如来が懺悔したってのか?
「彼が使っていた無量光も、私の持つ竜華三会(りゅうげさんね)も、どちらも元々は平和を願って生み出されたものである事は既に話しました通りです。阿弥陀如来もその事を重々承知していました。その上で、貴方方も見たようなやり方に使用した事を、彼は過ちであったと認めました。」
「遅過ぎるね。最期の最期で良い子を気取られたところで、野郎はいい気か知らねえが、こっちの気は治まらないね。奴にやられた連中に至ってはなおの事ってもんさ。あいつを裁く権利が俺にあったなら、今だって俺はあいつの息の根を止める事を前提に話を進めるぜ。」
 兵器によって傷付けられたものが憎むのは兵器ではなく、兵器を使用した相手なのだという意味の言葉がある。だが……兵器を呪わない人間など本当にいるのだろうか?
「そうですね。遅過ぎたのでしょう。そして、遅過ぎたが故に彼の懺悔は誰の耳にも届かなかった。」
 いつの間にか、廻灯籠の語気が強まっていた。
「まわりん、アミーは最期に何を言っていたのですか?」
 アミーって何だよ。いやまあ、分かるけど……。
「無量光、そして竜華三会は平和の為に使うべきもの、彼自身は使い道を誤ってしまいましたが、やがて……いつになるか検討もつきませんが、正しき使い道の出来る者が到来する、それを信じて待ってみてはどうか、というものでした。そして、その者の作る平和の世を私に見届けて欲しい、というものでした。」
 ……。俺はしばらく言葉を発する事が出来なかった。だから、瞼を閉じてみた。瞼の裏に、阿弥陀如来の顔を……決して許せない存在を蘇らせようとする。あいつの口から平和などという単語が出たというのか?俺は所在無く周りの様子を見る。廻灯籠や策溺は、こちらの様子を窺っているらしかった。横からひどく嬉しそうな声が聞こえるのは、河流のものだろうか。
「……フン。」
「ちょっと藁掴さま、もっともぉ~っと喜びましょうよ。こう、うわーっと。」
 怒っているのか呆れているのかよく分からない河流は無視だ。俺は廻灯籠に一瞥をくれてやる。向こうは動じる様子もなく、俺の言葉を待っているらしい。
「正しき使い道ってのは、破壊以外の目的で使うって事だな?」
「その通りです。あの光は使用者の思いを飛ばす力。敵と見做すものを調伏する為だけのものではありません。」
「なるほど分かった。ならば、その正しき使い道が出来る奴ってな、どういう奴の事を言うんだ?話の流れからすると、あんたじゃ駄目なんだろ?」
「……此処にいる我々だけでなく、多くの人にとって、無量光は武器、それも恐ろしい兵器として認識されています。ですから、今生きている我々はいずれも該当しません。兵器としての面を知らない、純粋に平和の為にのみ使う意志を持つ者こそが相応しいはずです。」
 ふうん……少し驚いた。てっきり今どこかでのほほんとしている奴に託す為に俺に協力しろ、と言うハラだと踏んでいたからだ。廻灯籠の言う通り、無量光が救済の為に使われるとすれば、それは確かに喜ばしい事なのだろう。しかしここに矛盾点も指摘できるのだ。
「しかし兵器にもなりうる事を承知していなければ、第二第三の阿弥陀如来が生まれ、また虐殺が繰り返される事になる。失敗は即破滅だ。」
「……その為に私に見届けて欲しいと、彼は言ったのです。罪滅ぼしすら許されなかった彼が死を予感した際に、最後に持った希望。私も信じてみたいのです。」
 ……心なしか、廻灯籠の語気が和らいだ気がする。俺の言いたい事は分かっているのだろう。そしてそれは、希望なんて不確定な要素で方が付く問題ではない。お偉いさんの夢の中の話ではない、現実なのだ。やり直しなど通用しない。だからこそ、確実に歩んで行かなくてはならない。
「俺はあんたを信用してはいるが、無量光に関するところまでは信用しきれないね。それに待つと言ったって、そんな奴現れる保障もないだろ?相変わらずあんた、阿弥陀の野郎にいいようにされているだけだ。」
「その様な言い方は慎みなさい。」
「……え?」
 廻灯籠の語気に強さが戻る。いや、戻るどころか前より荒々しくなっている。かつて彼女はこのような表情を見せただろうか……二つの大きな目が俺を睨み、黙らせる。
 僅かに気圧されたと言うのは否めないところだが、俺は自分が間違っているなどと思えない。俺と廻灯籠、互いの視線がぶつかる。長い沈黙を伴うこの拮抗を破ったのは、策溺だった。短く「失礼、」と言って自分の主人を制し、身体を俺に向ける。
「藁掴さま。貴方がこれまで弁護してきた者は、餓鬼畜生の者達と聞き及んでおります。しかしながら、藁掴さまは天道の者を弁護した事はございますでしょうか?」
「ああ?天道の連中だと?」
 あると言えばあるが、事実上はないと言っていいだろうか。というより、必要がないのだ。天道にいて真っ当な裁判なんてまずお目にかかれるものではない。ほとんどが八百長。人道はどうだか知らないが、基本的には六道の何処であったところで、裁判は極楽の連中の娯楽の一つだ。地獄や下三界の裁判の大半は、最終的に有罪となるか、無罪にすべく時間を稼ぎ、拷問を長引かせるかのどちらかだ。極楽の裁判も、似た様なものとまでは行かないが、罪の在り処を質すような手続きではない。結末が見える中で、いかに白熱した裁判を演出するか。従来の裁判の実態なんてそんなもんだ。
「……左様でございますか。餓鬼や畜生の心情をよく理解なさっているはずです。しかし、これが天道の者達、そして菩薩の心情となると、いかがでしょうか?」
「……俺には理解出来ねえってか?」
 策溺は黙って後ろへ下がる。しかしこれは俺に気圧されての行動ではない。本来の主人に先を譲ったのだ。廻灯籠が呼吸を整えた。
「それに貴方は、弁護人として当然の事ですが、餓鬼や畜生を無罪にすべく働いてきました。有罪であっても、彼らが起こした事件事故、本来大きな罪として見做されるものではなかったでしょう。ですから藁掴。貴方は虐殺という大罪を犯した咎人の心を、彼の後悔を、無念を、理解していません。」
 ……。さすがお偉いさんだ、仰る事がお綺麗でお綺麗で、目が眩んでくる。確かに俺は天道の連中の心の中なんて想像も出来やしないさ。しかし、理解できないと言うのなら……!
「それはそっちも同じだろう!地獄にいる俺達がどんな思いをしてきたか、天道にいた連中が理解していたってのか!」
「同じ?理解する努力もしない貴方と一緒にしないで下さい。」
「……!」
「罪人を蔑む目を持つというなら、それは貴方も、蔑まれる者の心を忘れているという事。貴方に被害者を語る権利はありません。」
 廻灯籠の姿が大きく見える……俺を圧迫させる程に。何かを言おうとした。それは言葉に、いや声にすらならなかった。
 かつて極楽に支配され、亡者として生きる事を、或いは生きる事すら出来ぬ運命を背負わされた地獄の民。蔑まれ、人としての扱いをすら与えられなかった俺達。そんな俺達と同じ孤独を、苦しみを、あの阿弥陀如来も味わったという事か?だが、それはかつての加害者が被害者の気持ちを「身を以て知った」だけの事だ。俺が奴を一発ぶん殴る程度の権利は余裕で残っている。そう頭で結論付ける。しかし、これが声にならない。言葉にならない。口に出す事が出来ない───。
「……何の真似ですか?」
 不機嫌そうな、廻灯籠の声。何の真似?俺は知らぬ間に何らかの行動を起こしていたのだろうか。意識を前方に戻すと、俺の目の前に……俺と廻灯籠の間に割って入るように……河流が立っていた。
「再度問います。何の真似ですか?河流さん。」
「藁掴さまは弁護人です!」
 俺からは河流の後頭部しか見えず、彼女の表情は分からないが……声の調子から、俺を庇っているように感じられた。
 そうだ。俺は弁護人。ならばだからこそ、在任を守る立場にある……弁護人は誰より被告を理解していなければならない。阿弥陀の野郎がしでかした事は許されない、どれだけ奴が高い位を持っていたとしても。第一、奴は既に入滅している。わざわざあんな奴の救済を考える必要など……いや、それこそあいつを見捨てている。俺は地獄に生きる者としては奴を許す気は毛頭ない。しかし弁護人として……奴の罪を、理解できなくとも、考える事は出来たのかもしれない。或いは、今でも出来るのかもしれない。
 俺の目の前の、小さな頭。河流。まさかこいつに、弁護人としての心得を教えられるとは。
「私も、彼の心を理解しているとは言えないでしょう。しかし、彼を思う事は出来る。そう信じています。」
「それが無量光を許すって事か。まったくかなわねえな。あんたを相手に罪を説くなんざ、釈迦に説法……じゃねえや。えーと?」
「もう、素直じゃありませんね。」
 何ィっ!?廻灯籠にまでそれを言われるとは……いつの間にかこちらを振り向いていた河流がにんまりと俺に笑いかける。
「何か言いたそうだな。言えよ。」
「いいえ、既に言ってあります。」
 そう言って胸を張り、今度は俺と並ぶように横へ来て、廻灯籠の方へ向きを変える。なんだかよく分からなかったが、それを見ていた廻灯籠がくすくすと笑い出した。此処は笑うところなのだろうか?取り敢えず彼女の機嫌が良くなったように思えた……のも束の間、そこへ策溺が何やら耳打ちしてくる。廻灯籠の顔に真剣味が戻る。
「少々脱線しましたね。それでは最後に、貴方に依頼する内容を伝えたいと思います。」
 依頼?ああ、お願い事があるとか言っていたか。廻灯籠が手をかざすと、池の水面に何者かの顔が浮かび上がる。……なんかパターン同じだな。池に映った顔も、やはり見覚えのないものだ。若い女の様に見える。
「この人物に見覚えは?」
「全然。見た事も。」
「食べた事もありません。」
 当たり前だ!……策溺が口を押さえて震えている。何をしているんだあいつは。そんなやり取りを全く無視しえ廻灯籠は続ける。
「彼女が六道へ現れたのはいくらか前です。正確に年数を数えていた訳ではありませんが、何百年も前ということではないでしょう。」
 いくらかと言うから数年単位だと思ったが……器の違いか。
「彼女は亡者として現れたその時から強力な力を持っていたそうです。もしも彼女が力を使えば、八大閻魔ほどの者であっても、一人や二人では押さえる事が叶わないと言われていました。ですから彼女は閻魔裁判を受ける事無く、牢獄へ監禁される事になったのです。無論、八大地獄に監禁したのでは万が一の時に抑えられませんから、彼女の幽閉先は……」
「閻魔大王直轄の大牢か。」
 思わず口をついて出た単語ではあったが、俺自身その地に足を踏み入れた事はないので、噂以上の事は知る由もない。本来の目的は、六道を危険に晒すような亡者らの力を奪う事にある。般若湯や阿弥陀如来が亡者であれば確実にここへぶち込まれていた事だろう。力を奪う方法に関しては、噂を何処まで信じてよいか分からないが、只管衰弱させるとか、体の一部を切除するとか、舌を完全に抜いてしまうとか……誰もが思いつくようなものから口に出せないやり方まで様々だ。そうやって力を奪い、危険度を徹底的に下げてから地獄道へ放り出す事で六道の安全を図るための機関だ……という話。教本にはどのように書かれているのだろう。河流に訊いたところ、何だかよく分からない図を描き出した。間違いなく理解していない。
「彼女も隔離される事を望んでいたそうです。彼女の力が人道でどの様に評価されていたのかは分かりませんが、六道では危険視されるものだと理解したのだと思います。彼女は罪人ではありませんから、ぞんざいな扱いはされていないと思いますよ。」
 なるほど。そいつは竜華三会や無量光の話と重なるな……先の話ではないが、廻灯籠もそいつの気持ちとやらが多少なりとも理解できるのかもしれない。
「そのまま力を弱めて、転生後は普通の女の子に戻りたいと言っていたそうです。」
「……。」
 その情報必要か?或いは廻灯籠も同意見なのか?
「しかし今になって、彼女が姿を消しました。これが判明しましたのが、般若湯の叛乱が治まった後と言われています。」
 ……ふむ。力を持っている奴の行方が分からなくなったってか。しかし般若湯の叛乱と言えば、最近と言うには抵抗があるくらいに時間が空いている。それだけの間何の処置もなかったのかと思ったが……違うな。考えても見れば、当時も、そして今に至るまで六道は慌しかった。行方不明者の捜索に割ける人員にも限度があったのだろう。
 おっと、嫌な予感がしてきたぞ?
「まさか、俺にそいつを見つけて来いってんじゃあないだろうな?」
「可能であればそう言いたいところですが、彼女がいる場所が場所ですので。」
 廻灯籠はここへ来て結論を渋る。歯切れが悪いな。
「まわりん、その女の人がいる場所はもう分かっているのですか?」
 俺と河流の視線が廻灯籠に集まる。策溺はと言うと、口を押さえてまだ震えている。本気で何やってんだあいつは。当然そんな奴を無視して、廻灯籠が重たい口を開く。
「……人道です。」
 ……。横で河流が息を呑むのが聞こえる。まさかとは思っていたが、外れて欲しい予想など当たって嬉しかろうはずもない。道理で居場所を突き止めるのに時間がかかるわけだな。人道の事など詳しい奴なんて滅多にいないのだから、消去法と言う事になるだろう。つまり、六道全域を捜索して見つからないと断言できたのだと言う事。
「となると、俺に依頼したいことってのは?」
「はい。地獄なら貴方が、極楽なら私が詳しいと言えるでしょう。ですが人道に関しては、六道を見渡しても詳しい人物などいないと言っても過言ではありません。となると必要となるのは現地協力者という事になります。」
 それもそうか。亡者の俺が人道をうろつくってのも問題がありそうだしな。ならば、俺にはその現地協力者を見つけて欲しいと言う事だろうか。
「いえ、私と旧知の仲にある友人が人道で元気してます。しかし連絡を取る手段がありませんので、交渉係に直接彼の元へ赴いてもらいます。貴方にはその護衛をお願いしたいと思っています。」
「なんだ。俺が交渉するんじゃないんだな。」
「そんなの任せられる訳ないでしょう。」
 露骨に顔をしかめられた。廻灯籠曰く、交渉と言うのはそれ相応の恰好、身分がある者が担当するものらしい。それは分かるが、何もそんな顔しなくても……。一応この恰好で長年弁護人としての交渉活動もしてきたんだから。
「任せられる訳ありません!」
 きっ、と俺を睨む河流。追い討ちをかけなくてもいいだろ、もう。
「任せられる訳、うぷぷぷっ!」
 と策溺。お前もう帰れよ。
「藁掴さま!それでは人道の美味しいものを持って帰って下さいね!沢山!」
「何言ってんだお前。」
「私は生ハムメロンというものを食べてみたいです。鮮度が命らしいので、痛まない内に戻って下さいよ?」
「そうじゃねえ。」
 俺が人道へ行く事が前提となっているのはこの際目を瞑る。しかし河流は全く状況を理解できていないらしい。二、三度首を傾けた後、くるりと廻灯籠の方へ顔を向ける。
「藁掴さまはまわりんの護衛として人道へ行くのではないのですか?」
「私は人道に関わる知人全てを当たる所存でいます。まだこちらで頭を下げる相手がいるのですよ。」
「でもそれじゃあ、一体誰が交渉するんです?」
 こいつは人の話を聞いていたのだろうか……。今この場にいる中で、交渉係に相応しい、それ相応の身分がある奴だよ。実際策溺もそれなりの身分だが、こいつが廻灯籠の側を離れる訳がないし、そもそも俺が護衛する必要があるとは思えない。いくら鈍い少女でも、いい加減に気付いてくれたらしい。開いた口が塞がらないように見えるが。
「それじゃあもしかして私……ご当地食材を食べ歩けるんですか!?」
 食い意地捨てろ!
「はっ!でも私がいなくなると大焦熱地獄が……。」
 気付くのが遅かったとは言え、肝心な事は思い出せていたらしい。もっとも、これも少しの間ならば問題はない。廻灯籠が策溺を示す。
「右手をご覧下さーい。」
 勿論、策溺お得意の変化だ。ただでさえ異様な光景なのに、笑いながらやるもんだから余計に不気味だ。そして、彼が姿を変えた先、現れた姿はなんと!

──ひょっとこだった──

「何やってんのよあんたはあぁぁ!」
 何処から取り出したのか、廻灯籠が巨大な蛇腹状の紙でひょっとこをしばいた。痛快爽快な音を響かせて地に伏せるひょっとこ。……笑いながら変化とかするからだよなあ。ところで心配なのだが、あの紙、経典じゃねえよな?
「影武者は女性に化け慣れている者に任せますので心配しないで下さい。」
 真顔で言う廻灯籠。何だ?コレ芝居なのか?もしかしてコレ笑っておいた方が良いのか?俺の心配を他所に、廻灯籠は河流に荷物を預けている。これには現地協力者に渡す書状等の他にも、六道へ戻る為に必要な道具などもあるとかで、要するに失くしてはならないものなのだ。そんなものを河流に預けるのだから、のっけから心配事が増える一方だと言う事がお分かりいただけると思う。さてその河流は、人道のものらしい地図を見て協力者の居所を確認している。彼女の人差し指が置かれた先には、「古亀屋」という文字が記されている。これも人道の文字だろうか。
「そう言えば……。」
 河流はゆっくりと、視線を池に移す。既に尋ね人の顔は映されていない。
「あの女の人、なんと言うお名前なのでしょう。」
「そんなの聞いてどうするんだよ。」
「気にならないんですか?」
 逆に問い質されてしまった。言われてみれば気にはなるが、言われるまでは気にもならなかったと言うのが正直なところだ。廻灯籠も名前が分からないらしく、書類をめくり続けて探している。しかし納得も出来る。その女の例は特別なのだが、通常ならば囚人ともなると名前で呼ばれる事はまずありえない。今ですら番号や記号で呼ばれているのだ。まして何十年も前となると言うまでもないだろう。
「参考にならないかもしれませんが、」
 書類をめくる手を止める事無く、廻灯籠が言う。目線も手元から離していない。
「天道の仏法関係者達は、彼女を呼ぶ際……魔王と呼んでいましたね。」
 ……!
「それは……穏やかな名前ではありませんね。ねえ藁掴さま……藁掴さま?」
 そうか。さっきの女が魔王だったのか。
「藁掴さま?」
 魔王。その名前なら聞いた事がある。噂じゃ人道で悪さをして、六道へ来るまでに既に力を失って、大牢に閉じ込められた事になっていたのだが……。噂か廻灯籠の話か、どちらが正しいのか分からないが、どの道こいつがいなくなったとなると、確かに、人道を含めた六道全ての危機になるかもしれないってのは間違いなさそうだ。
「河流。魔王の名を教えてやる。そいつの名は……


オダギリショウコってんだ。」


1-1、了。
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