小説載せる予定が、気がつけば日記の溜まり場。 そんなもんよ。
どこへいくいく 一九の道
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六道異伝の第一話第三章
2007-10-29-Mon  CATEGORY: 新風舎文庫(非公式)コラボ小説:六道異伝
キーボードがお釈迦になりまして、その所為もありまして時間がかかった第三章。
今回は『デス子』なので、カズーさんの魅力的な文体を真似ようと頑張りましたが無理でした。
てへ。
六道異伝Ⅰ-3
    玉出和輝

 俺の名前は玉出和輝(たまいで かずき)。花も盛りの中学二年生。一応何処にでもいる中学生として生活しているものの、こんな俺にはちょっとした秘密がある。それはクラスメイトの西上切絵(にしがみ きりえ)についての事なのだけれど、まあ説明はおいおいにするとして。
 今、その西上から「家に来てくれ」という電話を受けた。休日の昼、急いで来てくれ、と言う事だったけど、一体なんだろう。俺の頭の中では俺と西上のパペットが手をパタパタさせて楽しそうにもにょもにょもにょ……とまあ、なんだ。昼間から足取りが軽いぜ。東京タワーくらいなら軽く鼻歌交じりで飛び越えられそうな気になってくる。世界が薔薇色に見える。
 薔薇色の世界を歩く事数分、西上家到着。さすがに薔薇色には見えなかったけど、ここが間違いなく彼女の家だ。呼び鈴の音が天使のラッパのように聞こえる。実際は鼻詰まりのブタが餌をねだってるような音だったと思うけど、取り敢えず俺の耳には快く聞こえたと言う設定でお願いします。
 扉の向こうから西上が現れる。ええと、彼女の説明を……と思った矢先、西上は俺の腕をしっかりと掴み、家の中へと引っ張って行く。
 遅れてしまったけど、彼女の容姿について。といっても、身長も体型も普通だし、顔も少し可愛いかなって言うくらいで、取り立てて何かを言う必要もないし、どうしても知りたければ新風舎文庫から790円(税込)で絶賛発売中の『ニシガミさん家のデス子ちゃん』の表紙でも見てもらえれば良い。髪の長さは肩くらいだ。普段はどうもとろい印象を受ける彼女だけど、今こうして俺を引っ張って行く強引な姿にいつものとろくささは微塵も感じられない。
「ちょっ、待てよ!そんなに急がなくても俺は逃げないって!寧ろ攻める方だぜ?」
「待てないです!一大事です!」
 西上はこちらを振り向こうともしない。しかし、乙女の一大事と来ましたか。なるほど?
「何を納得したんですか?今日の和輝くんは朝からおかしいです。」
「うん、今は昼だけどな。」
 ついさっき起きました、という事かも知れない。それと一つ思い出した。西上はいつも語尾に「~です」をつける事から、綽名が「デス子」だったりする。
「待てないのは仕方ないけどさ、事情くらい話してくれよ。」
「電話で話したです!」
「話してない。急いで来いとしか聞いてない。」
「じゃあ玄関で話したです!」
「話してない。いきなり腕を掴まれた。」
「……。」
「……。」
「とにかく来るです!」
 結局話さないのかよ!そして西上はある部屋へと俺を案内した。どうやら寝室らしいけど、俺が想像していたよりもプリティ要素が今ひとつだ。女の子の部屋って感じじゃないな、おっと、部屋の隅にある布団の中に誰かがいるらしいぞ?と言う事はその人は布団の中で何かをしているはずで、布団の中でする事と言えば俺には寝る事以外に考えられないので、つまりその人は今将に寝ようとしているか寧ろ寝ているかどちらかのはず!余り騒がしくしない方が良さそうだな、うん。俺は優しさには定評がある男だ。名もない花を踏みつけられない男だ。
「パパ!和輝くんを連れて来たです!」
 そんな俺の優しさは西上の大声によって冥王星の辺りまで吹き飛ばされた。……あれ?今、パパって言った?
 ところで布団の中の人は何の反応も見せない。西上は西上で、布団に近付き色々と確かめた上で、ようやく布団の中の人が夢の世界でヨロシクしている事に気付いたらしい。
「もう、どうして寝ちゃったですか!」
 ……そんなとこ指摘してもなあ。
 ちなみに西上のパパさんと言えば、天地がひっくり返っても我が道を往く事で俺の頭の中の世界(仮称:カズキ王国(キングダム))にその名を轟かせている御仁だ。ゴーイングマイウェイという単語が似合う賞、男性部門第一位だ。
「いい加減に教えてくれよ。どうして俺、呼び出されたんだ?」
 そして西上は、誰が見ても「こいつは困っている」と判断してくれそうな表情で振り返る。「遠くにある観光名所までの道筋を尋ねられて説明が面倒」な表情と紙一重な気もするけど、取り敢えず「探しているコンタクトレンズを間違って踏んでしまった」ような表情ではなさそうだし、そもそも俺も西上も裸眼だ。
「和輝くんを呼びなさいと言ったのはパパです。きっとお仕事の事だと……思うです。」
「お仕事か。俺が手伝うのは少し久し振りって気がするぜ。」
 さて、先程保留にしておいた俺の秘密に触れなければならない時が早くも来てしまったらしい。別に説明忘れていたとか、面倒だったからとか、そう言う訳じゃないよ?
 お仕事と言うのは……西上とそのパパさんは、驚くなかれ、なんとびっくり死神なのだ。その死神のお仕事、簡単に言うと、死んだ人の魂の回収なのだ。ちなみに西上はついこの間死神デビューを果したばかりの新人さんだったりする訳なのだ!
 俺は死神とは全然関係のない人間なのだけど、なんでも俺は魂が簡単に抜け出てしまう体質なのだそうで、うっかり魂と体を分離させたままにしておくと本当に死んでしまうらしい。そこで、魂がうっかり行って来ますしてしまっても肉体に戻してくれるように、西上と行動をともにしている。しかしこれでは西上にメリットがないということで、パパさんから条件が出されている。新米の西上のサポートだ。
 そんな訳で、そこが俺がそこいらの普通の皆さん達と違うところだ。最近出番がなくて忘れていたけど。
「という事は、またパパさんが……何だっけ?誰かが死ぬって察知したのか?」
 今まではそのようにして俺が西上から連絡を受け、予定された時間と場所を合わせて魂を回収する、と言う手順を取っている。名前は忘れたけど、いつ何処で、まあ誰がってのは関係ないかもしれないけど、誰かの魂と体が分離するのかを予測するのも死神の必須能力の一つらしい。しかし西上本人はまだこの能力を体得しきれていないとかで、この能力に関しては専らパパさんに頼りっきりだった。
 ところで、俺の質問に西上が答えてくれないのは何故だろう。質問したのが結構前に思えて仕方ないのは、俺の頭の回転が速かったからだろうか?そんなはずはないから、きっと作者のタイピングが遅かったせいだろう。差し替えたキーボードが扱いにくくて仕方ないとぼやいている。ディスプレイの向こう側でぼやいている。
 そんな俺と作者のやり取りを全く知らず、西上は静かに口を開く。
「最近パパが大変なんです。」
 ……別の話になってる!やっぱり無視されてました!万歳!
「なんでも、このところ予感の数が急増したそうです。それに、現場に駆けつけてもお客さまがいなかったりするらしいです。」
 そうそう、誰かがいつ何処で死ぬのかを予測する能力は予感と言うのだった。ちなみに、お客さまとはパパさんが使う、死んでいく人に対して用いる表現。何だか重要な意味があった気がするけど……
「もう、聞いてるですか!?」
 珍しく眉を吊り上げて怒る西上と、
「き、聞いてまするよ!?」
 驚いて語尾が乱れる俺。
「要するに、パパさんの予感の精度が落ちたんだろ?ちょっと考えにくいけど、それでも予感が絶対当たるものじゃないって話だし、見た感じパパさん具合悪そうだ。体調が悪くて勘が鈍る事だってあるんじゃないのか?」
 と、俺は意見を述べてみたものの、西上はひょっとこのように口を尖らせている。どうも俺の意見に納得していないオーラが伝わってくる。ところでひょっとこってどんな口してたっけ?
「逆ですよ。パパが寝込んだのは、変な予感が沢山続いて、過労で倒れちゃったからです。」
 西上がパパさんの顔を覗き込むので、俺もそれに倣う。辛うじて倒れた人がどんな顔で寝ているのか分からないけど、パパさんはと言うと……ていうかこの人も過労で倒れるんだな。布団の中から見えた顔はなんと───

──ひょっとこだった──

「嘘吐かないで下さいです!ちゃんとパパの顔です!どれだけ『リバースガール』好きなんですか!しかも冒頭のシーンしか使ってないです!今回のお話に関係ないからって、ちゃんと最後まで読まないと駄目です!新風舎文庫から790円(税込)で絶賛発売中です!『怪獣工場ピギャース!』よりはお手頃です!」
 烈火のごとく怒り狂う西上。ひょっとこの話は一度しか使ってないんだけど、確かに俺も二番煎じのような印象を受けたのは何故だろう。あと、露骨な宣伝はどうかと思うが。
「取り敢えず、俺にとって大事なのは、どうして俺が呼び出されたかって事なんだけど……パパさんが過労で寝込んでしまうなんて、今までもあったのか?」
「ええと、本当に寝込んじゃったのはなかったです。」
 ……どうやら、嘘で寝込んだフリをした事はあったらしい。しかしそれでこそパパさんと言った気もする。動物園歩かされたなあ……。
「パパさんが寝込んだ理由、過労以外には考えられない?」
「うー、なさそうです。だって、今までなかったような忙しさになって、すぐに寝込んだんですよ?」
 どうも西上は、原因が急増したお仕事にあると決めかかっている。しかし、俺としては、パパさんが俺に用があって呼び出したと言うなら、体調を回復させる手伝いを俺にさせようとしたんじゃないかと踏んでいる。過労だとこの線はなさそうだしな。本当は今回も寝込んだフリをしているんじゃないかという妙に現実味のある仮説もあるけど、考えないようにしている。
「でも、それだけ忙しかったってのに、西上は随分平気そうだよな。」
 別に何かを狙った発言ではなかったが、そう言った途端、西上の目線が見る見る下がっていく。ハの字眉毛だ。口はまたしてもひょっとこだ。
「私は手伝わせてもらえなかったです。」
「……。」
 死神の仕事が忙しくなれば、当然人手を多くしようと考えるはずだ。西上は経験が浅いとは言え、既に何度か魂を回収しているちゃんとした死神。そんな彼女が手伝う事を禁じられるとすれば……おそらく急増したというその仕事が相当危険なものだったのだろう。経験の浅い素人を危険な目に遭わせては、人手が増えるどころか結果としては寧ろ減ってしまう事になるし、パパさんも西上の親として、娘にそんな思いはして欲しくなかったんだろう。しかしそうすると……?
 今ここ出れが呼び出されたのは何故だろう。全く見当がつかない……訳じゃない。考えたくないんだ。もしかして今、俺はとんでもなく危険な事件に巻き込まれようとしているんじゃないか?パパさんの思惑の本当のところは分からないと言ったって、何も分からないほど俺も馬鹿じゃない。……死にたくない。痛い思いだってしたくない。もっと楽しい思い出を残して、色んなところへ行って、色んな人に会って、長生きをして……生きていて良かったと思って死にたい。折角色んな人達と仲良くなったのに。西上とも仲良くなれたのに。西上?
「和輝くん?」
 気がつくと、西上が不思議そうに俺を見つめていた。
「あのさ西上、もしかするとこれ、とんでもなくヤバイ事が起きてるんじゃないか?」
 自分じゃ不安を隠そうとしてみたつもりだけど、俺の声は自分でも分かるくらいに震えまくっていた。
「うーん、やっぱりそうなんですか?少し不安になってきたかもです。」
「少し?」
 西上の反応は思っていたよりもずっと軽い。とろいところがあるからなのかもしれないけど、随分と拍子抜けだ。……って、ちょっと待てよ俺!
(何してんだ俺!西上を怖がらせてどうするんだよ!)
 西上は俺の命の恩人だ。勘違いから俺を回収しようとして来た事もあったけど、その間違いは彼女が真面目だったからだ。そんな西上がヤバイ事に巻き込まれてるかもしれないってのに、自分だけ怖いから逃げようってのか?挙句、西上を不安がらせようとまでして!それで自分は逃げるくせに!
(……最低だ!)
「和輝くん、顔色悪いです。もしかして、具合が悪いところで呼んでしまったんですか?」
 西上は不安そうに申し訳なさそうに俺に顔を近づける。たった今俺が自分を見捨てようとした事も知らないで、俺を心配してくれている……。
(おい俺、何震えてんだよ!)
 なんでだって!?怖いからに決まってるだろ!
(怖い?怖いのは西上も同じだ。お前一人が怖がってんじゃないんだ!)
 ……!
(西上はお前を助けてくれてきた。今本当のピンチが西上に訪れようとしている!お前はどうするってんだ!)

 俺の震えは、止まっていた。
「西上。」
「?」
 俺は西上の両肩を掴んだ。……小さい。当の西上は、何が起こったのか分からないといった様子でこちらを見ている。
「ごめんな西上。」
「な、な、何の事です?」
 上ずったような不思議なイントネーションの西上。確かに大事な事を色々と省略しすぎているな。
「俺、お前に沢山助けられてるけど、何もお返しできてない。だから、ごめん。これからはもっと、今よりももっとお前の事を」
ブイーーーーーン
「……。」
「あ、呼び鈴がなってるですね。ちょっと待ってて下さいです。」
「あ、いや、俺が行こう。西上はパパさんを看ていてくれよ。」
「え?でも和輝くん、」
 俺は西上の返事も待たずに、部屋の外に飛び出した。
 もう、じっとしてられなかったからさ。急に冷静になると心臓にも悪いものだね。


 さっきは天使のラッパのように聞こえたはずの呼び鈴が素人のティンパニー並のKY(空気読めない)に聞こえたけど、あのままでは俺はどんな言葉を西上にぶつけていたか分からないのだから、結果的にはギリギリで助かったのかもしれない。でも、暴走して途中で理性が戻ってくるんだから、これほど恥ずかしいものはないよ。顔から火が出るって言うけど、今の俺の顔からは南極の氷もたちどころに溶かしてしまうかもしれないくらいの熱量が放出されているに違いない。俺に近付くと火傷するぜ!もえちゃうよ?骨まで溶けるよ?ああもう、穴があったら入りたい!誰か俺を止めてくれ!
 ブイーーーーーーーン
 また呼び鈴だ。考えてみると西上家の人間に会おうとしている人に俺が会ってもどうしようもないよな。しかし今更西上に合わせる顔もないし、用件を聞いておくくらいなら俺にも出来るだろう。宅配便とかかもしれないしな。
 そういう事で、俺は玄関の扉を開く。オープンザドーア。その先にいたのは、女の人だった。綺麗な人だ。しかし年齢は見ただけでは分からないな。
 上背があって、黒い着物を着ている。法服って言うんだっけ?見れば吸い込まれそうなくらいに白い肌と艶々した金髪。およそ美人に必要な要素をもしかすると全て持ち合わせているんじゃないかと感じてしまうようなその人は、柔和な笑顔を讃えているけど、扉から俺が出てきたのを確認した途端、驚いたような表情になった。なんと言うか、自分と同じくらいの身長の相手が出てくると思っていたのに、扉から出てきたのは何とチビでした、みたいな……って誰がチビだ!
「おかしいですね、西上さんのお子さんは女の子だったと記憶しているのですが。」
 声も綺麗な人だった。この声を聞けばカナリアだって身の程を弁えて土下座するだろう。その人は形の整った眉を顰めている。『顰に倣う』と言う言葉は唐代における傾国の美女・西施が病を患った際に苦しそうに眉を顰めた様子が非常に美しく、誰も彼もがその様子を真似たけれど結局綺麗にならなかったと言う故事成句だ。今目の前にいる女の人の美しさは、眉を顰めた西施もかくや、と言わんばかりのレベルだと思う。
 ところで、いつから俺は薀蓄キャラになったんだろう。謎だ。
 取り敢えず、この人に俺が西上家の人間ではない事を全力でアピールしたほうが良さそうだな。
「あの、実は俺、この家の人間じゃないんです。ここは西上の家です。」
「あら、そうでしたか。それでは貴方はお弟子さんか何かなのですね。」
 弟子?なんで弟子?あ、何だか脇役の口癖みたいデシ。でもこれって西上と似てて紛らわしいな。そんな事を考えていると、女の人はいつの間にかノートを手にしていた。大きめの大学ノートを多少頑丈にしたような外観をしている。そのノートを示すようにして、彼女は軽く見て百万ドルは下らない価値はありそうな無敵スマイルを披露する。しかしそれでいてお替り自由だ。
「私はこういう者です。」
「……。」
 何だって?えーと、どうやら自己紹介をしているらしい。つまり、このノートが彼女の何かを如実に表しているはずだ。彼女はこの西上の家、つまり死神の家を訪ねてきたんだよな。「ノート」と「死神」から連想できるサムシングがある様なないような、いややっぱりないな。もしかして、ノートじゃなくて手帳なのか?ドラマなんかで警察が見せているような。でもそうするとこれは何の手帳だろう。うーん、落ち着け、クールになれ玉出和輝。これでも死神の助手なんだから俺にだって分かるはずだ。唸れ海馬。繋がれニューロン。ついでに時間も止まってくれるということはない。俺の頭の中ではミニ和輝くん達が数十人体勢であらゆる情報をバケツリレー形式で、現在進行形でこぼしたりぶちまけたりひっくり返したりしている。ってそれバケツしか伝わってないじゃん!
 結論:俺には分かりません。
「ああっ!」
 すると、後方から絶叫に近いような声が飛んでくる。振り返るまでもなく……西上だ。あっちゃあ。
「め、明鏡止水(めいきょうしすい)様ですっ!」
 絶叫しているだけあって、西上は意味の分からない単語を言い出した。あれ?もしかして名前?じゃあこの人の名前?
「おい西上、この人は一体?」
 と、俺は口にしようとした。でも、それは他ならぬ目の前の女の人に遮られた。
「すみません。ここでは誰に聞かれてしまうか分かったものではありませんから。私をもてなすような事はなくて結構ですから、せめて屋内に入れてくれませんか?」
 とか言いながらちゃっかりドアの内側まで入ってきている明鏡なんとか様。実に強かな女性だ。そしてそれを聞いた西上は超反応でどこかへ飛んで行った。透明人間に突き飛ばされたのかと疑いたくなるような速さとパワーだ。何処に行ったんだろうと思っていたら、すぐに同じ速度で戻ってきて、俺の手を引っ張って何処かへと連れて行った。居間だった。西上は座布団を三枚用意していた。
「お掛け下さいです!」
「ん、サンキュー西上。」
「ちっがーうです!!」
 西上に両腕で突き飛ばされ、俺の体は吹っ飛んだ……と思いきや、さっきまでと変わらない光景がそこにはあった。でも、突き飛ばされたのは事実だから、これは……。
「今のは明鏡止水様に言ったです!なのにどうして和輝くんが座っちゃうですか……ってああ!」
 興奮状態にあった為か若干反応が遅かった西上ではあったけれども、事態に気付いたらしい。既に説明してはあるが、俺は体と魂が簡単に分離してしまう体質なのだ。今のように強い衝撃を受けると……ていうかちょっとでも衝撃を受けると、すぐに魂が離れていってしまう。この事は西上も知っているハズだっていうのにもう忘れたのか……で、俺の魂は西上に掴まれ、肉体の方の俺とトゥギャザーしようぜ!みたいな感じで合体させる。
「さ、明鏡止水様、こちらです!」
 居間には、俺と西上と明鏡止水様が座っている。明鏡止水様は例のノートをテーブルに置いた。
「そちらの方の為に名乗っておきますね。現・閻魔大王の明鏡止水です。」
 もの凄くナチュラルにそんな事を言うので、俺としても、はあなんだ閻魔大王様ですかそれはそれは、などと危うく間の抜けた返事をするところだった!しかしそれを言うのを踏みとどまったところで言い返す言葉が見つからず、結局間抜けな顔でしばらくい続けてしまった。
 ええと、閻魔大王と言えば、あの閻魔大王だろうか。人が死んだ後、天国へ行くか地獄へ行くかをジャッジメントする役職の。ひとつ、贔屓は絶対せず。ふたつ、不正は見逃さず。みっつ、見事にジャッジする!でおなじみの、ってこれは言いたかっただけで関係ないんだけど、ああ頭が混乱する!
 困った俺は西上に視線を移す。助けて!
「死神現代って言う週刊誌にグラビアが載っていたくらい、死神の中でも有名な閻魔様です。最近閻魔大王に就任なさったとかで、注目度ナンバーワンの若手閻魔様なんですよ!」
 西上はあっちはあっちで興奮していた。その点を見れば俺と真逆だけど、あまり明鏡止水様の話を聞いてなさそうなので、俺と同じか俺より性質が悪いくらいかもしれない。しかし急に親近感の沸く説明で助かったぜ!でも西上、週刊死神ってどんな雑誌なんだ?地の文による俺の質問に対し、西上は快く答えてくれた。死神制度のあれこれとか、おすすめスポットとか、はさみのカタログなんかが掲載されているらしい。教えてくれてありがとう。俺の興味を全く引かない事がばっちり分かったぜ!
 どうやら明鏡止水様は本当に閻魔様で、それも閻魔大王らしい。よく考えれば西上の家は死神してるんだし、そっち系の役職とパイプがあっても驚きはしないよな、いや、でも驚くって普通。インド人もびっくりだよ。インド人が普通なのかどうかは俺には分からないけど。
「それで、閻魔様が何の御用なんでしょう。」
 そろそろ本題に移って欲しかったが、明鏡止水様は微笑んで、
「申し訳ありませんが、ご主人のところへ案内していただけませんか?貴方方を信用していないわけではありませんが、重要な事ですから本人に直接お話したいのです。」
 確かに彼女の言う事は正論だ。しかし……俺と西上は顔を見合わせ、正直に打ち明けて引き取ってもらうよう打ち合わせる。今のパパさんは人に会えるような状態ではないだろうし。
「えっと、私は西上の娘の、西上切絵と言いますです。父はこのところの激務が原因で今体調を崩しているのです。面会は難しいかと思いますです。」
 果たして西上の口調は丁寧なのかどうか今ひとつ疑問が残る。でもまあ実際、寝ているパパさんの近くで大声出していた人間の台詞じゃないな。
 明鏡止水様はというと……少しは残念そうにも思えたけど、大きく表情を崩してはいなかった。
「そうでしたか。実はここに来る前にも、知り合いの死神を当たってみてはいましたが、皆さん同じ理由で体を壊しているようですね。これは困りました。」
 とか言いながら、何故か俺を見つめる明鏡止水様。
「ところでお弟子さんは、既に死神のお仕事を始めていらっしゃるのでしょうか。」
 あう。そういえば俺は弟子だと思われていたんだった。なるほど、死神としてのパパさんを頼れなくなったとすれば、弟子に頼むか用件を伝えるのが最良の選択だ。となると、そろそろ誤解を解いておかないとまずいな。
「あの、明鏡っ水様。」
 ……噛んじゃった!よりにもよって閻魔様の名前噛んじゃった!超やばい!巨やばだ!俺の人生で危なかった出来事を数えていけば間違いなく親指に来るだろう危険度だ!指折って数える時に一番最初にくる指なんだけど、折った状態から数えようとすると、親指は五番目だよね。あ、なんだ五番目くらいか。それほどまででもないじゃん、って違う!
「ああ……呼びにくいようでしたら、何か適当に呼んで下さい。」
 俺がどれだけパニクっていたのか分からないけど、気付くと明鏡止水様は苦笑い、英語で言うところのビタースマイルでこちらを見つめていた。
 ふむ、ではお言葉に甘えて、呼びやすい名前を……甘いな。ただ呼びやすいだけの名前なんてありふれている。好きな言葉は努力ですと口走るくらいにありふれている。俺はここで、呼びやすくてそれでいて魅力的、英語で言うところのチャーミングな名前を創造すべきなのだ。名前が明鏡止水なんだから……
「じゃあメイキョンで。」
「いまいちですね。」
「じゃあキョンキョンで。」
「今風ではありませんね。」
「じゃあ一回にしてキョンで。」
「際どいですね。」
「じゃあ、じゃあ、うーん。」
 あれれ、もうストックが尽きてしまった。少し前にパパさんのネーミングセンスを扱き下ろした事があったけど、俺も何だかパパさんを笑えたもんじゃなさそうだな。この場を借りてごめんなさいと言っておこう。などと殊勝な事を考えている内に、今まで地蔵のごとく黙っていた西上が口を開いた。
「それでは、お姉ちゃんって呼びますです。」
 ……なんでっ!?俺の首がガギュンとありえない音を立てて西上の方へ回転、西上のにこやかないつもの顔を確認して再度ガギュンと首を今度は明鏡止水様の方へ回転させる。お花畑を両手広げはしゃぎまわる少女のような顔で見事にゴーオンナトリップ中の女の人がそこにいた。
「和輝くんよりは、私の方が女心分かってるです。」
「ん?何か言ったか?西上。」
「ほら、和輝くんもお姉ちゃんを褒めるです!」
「お、おう……。ええと、お姉ちゃんの服は真っ黒で格好良いなあー(棒読み)。」
「え?これですか?私は余り法服は気に入ってはいないのですが。」
 西上の『お姉ちゃん作戦』ですっかり骨抜きになっていたはずのこの人、俺の精一杯の褒め言葉を聞いた途端素に戻っちゃったよ。
「何やってるですか和輝くん!褒めるところ違うです!法服は黒と決まってるです!何故なら黒色が〝何者にも染まらない〟公正さを象徴しているからです!」
「よくそんな事知ってるな。尊敬しちまうぜ。」
「えっへん!ってのせないで下さいです!これくらい知ってるです!」
 さっきからやたらと感嘆符を入れまくる西上。このままでは綽名が『デス!子』になってしまうんじゃないかと心配になってくるけど、多分ならないだろう。
「ところで、そういえばまだ貴方のお名前を伺っていませんでしたが、カズキさんでよろしいのでしょうか?」
「お姉ちゃんその通りです!」
「はう~☆」
 とまあ今更だが自己紹介。でも割愛。皆には必要ないよね?俺は玉出和輝、中学二年生!覚えてるよね?
「それで和輝さん、私に用があるのですよね。」
「はい、実は俺、死神じゃなくてかくかくしかじか。」
「和輝さんが一般人で、切絵さんが死神、そうでしたか……ふむ。」
 目を伏せ、口に白魚のような指を当てて、何やら考え込んでいるように唸る明鏡止水様。その姿は唐代の西施もかくや、ってこれはさっきやったな。じゃあ、ひょっとこ、ってこれもさっきやったっけ。第一ひょっとこは美人じゃないな。とにかく明鏡止水様は美人だったんだ。うん。
「ある程度の実力をお持ちならば、ご本人でなくとも依頼するのですが……初歩的な事すら覚束ないとあっては……」
 彼女の口から、それは独り言のようにこぼれてきた。俺には彼女の悩んでいる事が予想できてしまった。パパさんに頼み事を出来ないので、代わりに引き受けてくれる人を見つけたい。目の前に西上がいるのに、新米で実力が不足しているからと言う理由で、明鏡止水様は西上を頼るべきかどうかを悩んでいるのだ。
 確かに西上は新米だし、力不足も否めない。それに、さっきのは独り言だから、この人が意識して口にしたわけではないと言うのも、頭では分かっているけど……それでも頭にきた。
「貴女は西上の事をなんにも知らない!それなのに西上には無理だって、一方的に決め付けるんですか!」
「え、か……和輝くん?」
 西上と明鏡止水様、二人とも驚いたように俺を見つめていた。でも、明鏡止水様だけは、すぐに表情を戻す。まるで俺が叫んだ事がなんでもなかったみたいに、落ち着いた表情に。
「これが不躾な以来である事は否定できませんが、しかしこれが重要且つ火急の用件だからこそなのです。確かに私は切絵さんの事も和輝さんの事もよく知りません。だからこそ、よく知らない相手に易々と話してしまうわけにも行かないのです。」
「西上が信用できないのかよ!」
 俺は思わず立ち上がる。それを押さえようとしてなのか、西上もすぐに立ち上がり、俺を座らせようとする。
「信用できないとは言っていませんよ?」
 明鏡止水様は一人だけ座ったままで、落ち着いたまま言葉をつなぐ。
「信用できないからそうやって西上を無視するんじゃないか!それなら出て行けよ!信用できない相手を家に上げるなんてできるか!」
「和輝くん、落ち着いて、落ち着いて下さいです!」
 西上が俺を説得しようと必死になっている。……なんでだよ。お前が馬鹿にされてるのに、俺はお前の味方なのに、どうして俺を押さえつけようとするんだよ……。
「私の力不足は本当の事です!言われた通りです!」
「それに、私は彼女を愚弄したつもりはありませんよ。」
 俺に怯えるでもなく、俺を茶化すでもなく……明鏡止水様は座ったまま、顔だけは俺と正面から向かい合うようにして、真剣な顔つきでそう言ってくる。
「そっちにその気がなければ人の心を傷付けてもいいのかよ!西上に謝れよ!」
「やめて!」
 今にも明鏡止水様に組み付かんとしていた俺を、後ろから無理矢理抱き寄せるようにして、西上が制した。
「いつか必ず、一人前の死神になるんです。その為に今だって毎日頑張ってるんです。だから、今は力不足でも気にしないです。ある日突然一人前になるなんて、そんな風にしてなりたいんじゃないんです。」
「……西上。」
 いつの間にか、固く結ばれていた俺の拳からも、怒りを漲らせていた腕や肩からも、力が抜けていた。
 そうだ。西上がいつだって一生懸命なのは、俺だってよく知ってるじゃないか。いつまでも一人前になれないなんて、西上に限ってはあるはずが無い。それは寧ろ、俺から西上に言うべきだったかもしれないくらいなのに、逆に俺の方が西上から言われてしまうなんて、かっこ悪過ぎる。
「ごめん西上。俺、お前を信用してなかった訳じゃないんだけど、なんか、カッとしちゃって。」
「気にしてないです。大丈夫ですよ。」
 そう言いながら俺を解放し、座るように言う西上の顔に少し赤みが差していたように見えた。……なんて言えば聞こえは良いけど、実際向こうも俺を押さえるのに興奮していたんだろうし、感極まって、とかいうのではない気がする。ひとまず言われた通りに座るとしよう。
「私には一言もないようですけども。これではすっかり悪者です。」
 ここへきて初めておどけたように肩をすくめる明鏡止水様。うう、言われてみると確かに、彼女に悪いところはないんだよな。西上も傷つけられたとは言ってなかったし。つまり……悪いのは全部俺だ。
「す、すみませんでした明鏡っ水様……。」
 またかんじゃった!二度目だよ!恐る恐る彼女の顔を見ると、寧ろ俺の態度が意外だとでも言いそうな顔をしている。何に驚いているんだろう。
「あ、いえいえ。素直に謝ってくださいましたね。素敵な事です。先程の和輝さんの、友人の為にむきになる姿を見ていて、地獄にいる知人を思い出してしまいました。彼は貴方ほど素直ではありませんので。それで驚いてしまいました。すみませんね。」
「えっ?っと……」
 俺の頭の周りを無数の疑問符がメリーゴーラウンドさながらに回り始めた。その数を数えていたら何だか眠たくなってきたので慌てて視線を明鏡止水様に向けた。
「出来ない事は自分でやらないでパパに伝えるです。もしかしたら私にも何か出来る事があるかもしれないです。お話だけでも聞かせてくれませんか、お姉ちゃん!」
「うん話しちゃう!」
 俺の視線の先にはえびす顔の女性が座っている。西上はこれからどんな悪い事をしても、閻魔様の前で一言言うだけで天国へ間違いなく行ける事だろう。
「お二人とも、『黄泉帰り』と言う事象について、何かご存知ですか?」
 『よみがえり』……?なんとなく予想がつかないでもないけど、迂闊な事を口にするのは躊躇われたので、西上の方を見る。
「和輝くん、私達死神がお客さまの魂を回収して、その魂がどのように運ばれるかについては、もう分かってるんですよね。」
「ああ、お前が前に説明したやつか。魂はリサイクルされて、生まれ変わるんだったよな。」
 その為、死神は魂回収の際に、生まれ変わったら何になりたいかのリクエストを尋ねなければならないのだが、西上は最初……って他人の失敗談を嬉々として語るのもどうなんだろうな。やめておこう。俺は優しさには定評のある男だ。粉末にした俺を煎じて飲めば風邪が治るってくらいの優しさだ。
「本来は和輝くんの言った通りですけど、回収された魂がリサイクルされずに、そのまま自分の体に戻ったり、自分の体でなくとも、誰かの体に入ったりしちゃう事が、あってはならないんですけど、あるんです。この現象を死神の間では『黄泉帰り』と呼ぶ事があるんです。本当の罪状はもっと長い名前なんですけど。」
「えっ!?他人の体に入る事もあるのかよ!」
 俺は片手で地球をぱかんと割るパンチを両手同時に喰らった様な衝撃に見舞われた。説明している方の西上も実に難しい顔をしている。解の公式を用いて導き出された解答が割り切れない分数だった時のような表情だ。計算が面倒だと確かめ算やる気も起こらないよね。あれ?俺だけ?
「あると言えばある、です。……和輝くんは自分の体であっても、一度魂が離脱してしまうと自分一人では戻れないんですよね?」
「あ、そっか。悪意があっても、必ずそれが成功するとは限らないんだな、えっと、『黄泉帰り』だっけ?」
 なんとなく『黄泉帰り』のシステムが分かりかけてきたところで、気になった事があった。それは、西上が『黄泉帰り』の呼び方を俗称だと言ったところ。その後西上は何て言った?罪状って聞こえたような気がするけど。
「和輝さんも気づきましたね。『黄泉帰り』は、罪に問われるものです。成功率がどうであれ、魂をその様にぞんざいに扱う事は、故意でも過失でも、如何なる理由であっても、罰則の対象となります。死神には、全ての魂を私達の元へ運ぶ義務があります。原則上、『黄泉帰り』で処罰を受けるのは死神です。」
 明鏡止水様が厳しい口調でそう言うもんだから、一瞬パパさんを罰しに来たと言い出すのかと思ってしまったけど、考えてみるとそれはなさそうだった。最初、確か色んな死神を頼ってきたと話していたし、パパさんが無理なら西上に頼もうとしていたのだから、明鏡止水様の意図は『誰かに罪を贖って欲しい』というものではなく、『誰でも良いから問題を処理して欲しい』というもので間違いなさそうだ。
「と言う事は、パパさんに依頼しようとしたのは……捜索活動なんですか?」
 俺の読みが鋭かったのか、明鏡止水様は少し驚いたような顔を見せたものの、やはりすぐに表情を落ち着いたものに戻した。
 思ったとおりだ。俺は頭脳の回転を更に速める。このまま両腕を広げれば空だって飛べるくらいに回転させる。でも実際はそんなに回転させるまでもなく気付いたんだけど。
 『黄泉帰り』、これが死神界で罪に問われるようなものでありながらも実例があるんだから、隠れてこそこそそれを行っている悪徳死神がいるかもしれない事くらい簡単に想像がついた。だからきっと、同じ死神であるパパさんにその悪徳死神を見つけ出して欲しい、と言う依頼に違いない。なんなら俺の魂も賭けてみようかと言い出しかけたものの、先に明鏡止水様が口を開いたので、素直に待つ事にした。
「和輝さんのご指摘の通り、捜索の以来が目的です。しかしこれは本来死神の手を煩わせる必要のない事ですので、こちらも強要は出来ないのですが……」
 あれ?死神の仕事と関係ないって?
「捜し出して欲しいのは、ある人の魂です。その魂はかつて死神の手によって回収され、我々の管理下に入っていましたが、そこから行方が分からなくなってしまいました。不備がありましたのはこちらの管理体制です。死神には何の責任もありませんが、それでも魂の捜索には死神の能力が適しています。できれば死神の誰かに引き受けてもらいたいのです。」
 取り敢えず俺の推理が間違っていたらしい事は分かった。魂賭けなくて良かった。探すのは魂の方か……。
「という事は、極悪人の魂なんですね?」
「そうではありませんよ。死神に落ち度があったのならともかく……いくら牢を抜けたところで、私達の管理下から誰にも気付かれずにこちらの世界にやってくるなんて、余程巨大な力でもない限り不可能です。しかし、それほどの力が彼女にはありました。大きな力を持った魂が、この世界で行方不明になったのです。」
 明鏡止水様の顔つきは随分真剣だし、そうなると彼女のいう事もきっと真実で、どうやら女の人のものらしい例の魂はとてつもない力を持っているんだろうけど……魂の状態でそれだけの事が出来るのなら、わざわざ体を手に入れなくても、と思うんだけど。
「和輝くん、これはとっても悲しい……一大事です。」
 ん?いつの間にか俺を見ていた西上がそんな事を言い出した。やっぱりハの字眉毛、口はと言うと、何か言葉を探している最中なのか、微かに動いているけど……言葉になっていないので分からない。やがて、大きく息を吸って大きく口を開けた。言いたい事が見つかったらしい。
「回収されないままだと、お客さまがどうなっちゃうか、和輝くんも知っているはずです。」
「……そっか。」
 思い出した。初めの内は自分が何者なのか覚えていられるけど、やがて何もかも分からなくなって、何も出来なくなって、そんな状態でただそこにずっとい続ける事になって……それが、魂の顚末。
 問題がここでようやく見えてきた。自分が誰なのかも分からないのに、力だけは残っているとしたら、確かに何をしでかすか分からないし、その魂が暴走する事がなくても、悪い奴に目をつけられてしまえばそれこそ大変だ。
 西上は自体を理解した俺を見て頷き、明鏡止水様に向き直る。
「私も自分で出来るだけの事は頑張ってやってみるです!お姉ちゃん、他に分かってる事は……」
「なりません。」
 ぴしゃり。もしかすると少しだけ興奮していたかもしれない西上を、明鏡止水様が制した。
「気が逸るのも分かりますが、無理をされては困りますよ。危険な存在が彼女を狙っているかもしれません。お一人で行かせるわけには行きません。」
 穏やかな口調と表情を変えないまま、明鏡止水様はきっぱりと、言葉で西上を押さえつける。西上もまだ何かを言おうとしていたけど、自分の能力を理解しているとついさっき言ったばかり。結局それ以上二人とも何も言わなかった。
「西上。俺達は今出来る事をやっていこう。いつか俺達の力も必要になるかもしれない。」
 西上は、ずっと黙って俯いていた。俺の言葉が耳に届いたかどうかも怪しい。と、少しだけ今、西上の口が動いた。
「それじゃあ、パパが……。」
「ん?」
「危険かもしれないお仕事を任されるのは、パパかもしれないんです……。」
 ……それは、あまりにも細くて、弱弱しい声だった。俺が聞こうと努力しなければ誰にも、或いは西上本人にすら届かなかったかもしれないくらいに小さな声だった。俺は彼女のそんな声を今まで聞いた事がない。西上は誰とも目を合わさず、顔も上げず、もしかするとどこも見ていないかのように、ずっと床を睨み続けている。
「誰が行くのであれ、一人では行かせません。死神の中のどなたか、それが叶わないようでしたらこちらから人手を割いてでも手伝わせます。必ずグループで動いてもらいたいのです。」
 明鏡止水様の言葉にも、西上は何の反応も見せなかった。
 ……俺は西上に、どんな言葉をかければ良いんだろう。彼女は今、何を考えているんだろう。
「切絵さん、お父様のご様子を伺っても宜しいでしょうか?」
「……えっ?」
 ……西上が、
 顔を上げた。
「ここが私の尋ねる知り合いの死神の内、最後の一軒でした。皆さんも過労で、門前払いになる場合もありましたから、予定が随分と早まっていまして、地獄へ帰るまで時間が大変余ってしまいました。もしかすると、私の法力を使えばお父様の具合を良くする事が出来るかもしれません。」
 明鏡止水様のとびっきりの笑顔が西上に向けられる。
「本当ですか?良かったな西上!パパさんの具合が良くなるかもしれないぞ!」
「うん……。」
 あれ?どうしたってんだ?さっきから西上の様子がおかしい。さっきはパパさんを心配している様子で、それでパパさんが元気になるかもしれないって事になったらなったで、またぼんやりして……。
「それでは、パパ……じゃなかった。父の所まで案内しますです。明鏡止水様、こちらです。」


 さっきも入った寝室にもう一度やってきた。俺が慌てて飛び出した時のまま、パパさんは布団をかぶってお休み中、やはり顔は見えなかったけど、明鏡止水様がそっと布団を剥がしていくと、俺の知っているパパさんが温かそうな寝巻き姿で仰向け状態で寝ていた。……そんなに具合が悪そうには見えないけど。
「さて……過労でしたか。」
 明鏡止水様は少しの間思案して、両手をパパさんの胸の上にかざして、なんていうか、パパさんの体を覆う空気を撫でるようにして、パパさんの頭から足先まで、触れない程度に手をかざしていく。
「お姉ちゃん、父の容態はどうなんですか?」
「……過労は過労です。篤いものではありませんよ。但し、時間は思っていたよりも掛かりそうですね。」
 手を止めず、パパさんを見つめたままで、明鏡止水様は西上の質問に答える。
「肉体と魂は別のものでありながらも、生者であればその繋がりはしっかりしたものですから、肉体と魂、どちらかが衰弱すればもう片方も衰弱します。そしてこれは逆もまた然り。体が弱っている場合は、肉体と魂のどちらかを元気付ければ全体的に回復させる事に繋がります。しかしこの方法は死神には適用できないのですよ。死神の能力は魂と肉体のバランスが調っていて初めて使用できるものですから、両者を同時に、同じ調子で回復させなければ、下手を打てば元気になったところで死神の能力をしばらく失う事になってしまいます。」
「はあ……。」
 俺には全く分からない話だったし、溜息をつきたくなるのも当然だけど、今の溜息は俺のじゃない。西上だ。西上もどうやら明鏡止水様の説明をよく理解していないようだった。
「時間の許す限りですが、私もやれるだけの事はやりましょう。」
 結局俺達の方を向く事がないまま、明鏡止水様は何かを唱えだした。こうなると俺達は傍らで見守るしかないな。
「和輝くん……。」
 ん?声がしたので、西上の方を振り向くと、西上がまた、元気なさげで俺を見ていた。っていうより、俺の方を向いてはいるけど、俺を見ているのかどうかはちょっと分からない。
「パパが元気になるのは、勿論うれしいです。でも、パパは元気になったら、危ない目に遭うかもしれないんですよね……。」
「……。」
 そうか。西上は不安なんだ。
 さっき、この部屋で俺が取り乱しかけた時、西上は不安そうにはしていなかった。でも、今は西上は不安なんだ。それはきっと、明鏡止水様の所為だ。それまで漠然とした不安だったものが、彼女が持ってきた話の所為で、かなり現実味を増してしまったからだ。しかも、巻き込まれるのは死神達。もしかすると明鏡止水様は、早く問題を処理したくて、それに適当なのがパパさんだからと言う理由で、パパさんを回復させようとしているんじゃないかと邪推してしまいたくなる。いくらなんでもそんな事はないだろうけど、それにしても、西上が心配しているように、パパさんが元気になれば、すぐにでも例の話を解決する為に動かされるかもしれない。
 西上の気持ちは確かによく分かる。わかるんだけど、でも……
「でも西上これが大変な事件だってのは、お前も言ってたとおりなんだろ?そしてこれは、俺みたいな普通の奴にはどうする事も出来ない。魂の専門家、死神にしか解決できないんだ。死神に落ち度はなかったけど、それでも誰かがやらなくちゃいけない。その誰かってのは、死神の誰かなんだ。」
「死神の……誰か。」
 西上が俺の言葉を繰り返した、その時。
 焦点が合っていなかった西上の視線が、はっきりと俺を捉えてくれたのを感じた。今ようやく、目の前の少女が俺の知る西上切絵に戻った気がした。次の瞬間にはいつものように、いつも以上ににこやかな顔になっていた。
「和輝くんの言う通りです!本当にありがとう……私、ちょっと悪い方に考えていたです。でも、これでもう迷いはないです!」
「気にするなって。俺もお前に沢山励まされてるんだ。それより、もしもパパさんが引き受ける事になったら、少しでもパパさんに楽させてあげられるよう、俺達も頑張ろうぜ!」
「……。」
 西上は声で返事こそしなかったものの、しっかりと頷いてくれた。
「そうと決まれば、パパさんの回復を最優先させるべきだよな。何か元気になるようなものないかな?」
「あっ」
 西上は三秒くらい「あ」の口をしたまま固まっていた。こいつが「あっという間」と言ったら、それはきっと三秒以内という意味になるんだろう。
「それじゃあ、パパの好きな果物でも買ってくるです。」
「お、いいじゃん。だったら俺もついて行くよ。」
「……駄目ですよ。パパと明鏡止水様を二人っきりにさせてしまうです。」
 西上が口を尖らせる。二人っきりにする事の何がまずいんだろうか。……あ、明鏡止水様がいつ帰るのか分からないんだ。買い物から帰るまでに明鏡止水様がいなくなったら、誰もパパさんを看病する人がいなくなる。
 でもそれなら西上が家に残って、俺が買い物に行けば良い気がするんだけど……西上曰く、パパさんは果物には特に五月蝿いらしく、西上が自分で目利きするのが一番だという話。
「じゃあ和輝くん、パパをよろしくお願いしますです!」
「大袈裟だな。しかし、正直俺も心許ない気がするよ。出来れば早く戻って来いよ……。」
「うん、分かったですよ。では……行って来ます。」
 西上が部屋を出て行った後で、俺は今日が休日だった事を思い出した。


六道異伝Ⅰ-3
         了
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コメント

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突然失礼致します~
コメントKAZ- | URL | 2007-11-01-Thu 09:57 [EDIT]
突然ですが、一九さんはもし自分の書いた本が出版されたら
まず何をしますか?
僕ならインターネットでその本のタイトルを検索してみると思います。

と、いうわけでここに辿り着きました。
初めまして、デス子の作者のカズーです。
おいらなんかの書いたキャラをこのお話に混ぜてくださいまして
本当にありがとうございます。すげー嬉しいです。
続き、楽しみにしておりますので。お互い頑張りましょうです。
作者さんだあああああry
コメント一九 | URL | 2007-11-02-Fri 07:45 [EDIT]
やったぜ喜んでもらえたぜいやっほう!
おはようごじます。まちがえた。おはようございます。雪嶺一九です。
『閻魔の弁護人』を読んで作者と知り合い、「折角色んな作品を薦めてもらったのだから、コラボしてみよう」という理由になっていない理由から始まったこの企画、正直作者の方に巡り会えるとまで思ってはいませんでした。結構感動、というより興奮してます。
続きですが、今より破天荒な内容になる、とだけ。もしもお読み頂ける事がありましたら、寛大な目で見守って下さいますと大助かりです。コメントも頂けますと感涙物です。

自分の本が出版されたら、何をするんでしょうね。宣伝だと思います。そんな日が来ると良いな。絶対実現させるぞ!

応援もありがとうございます。今よりも増して創作に励みたいと思います。こちらこそ、お互い頑張りましょうと言いたいですって偉そうだな。

コメントありがとうございました!
きたか、KAZ-よ。
コメント松山剛 | URL | 2007-11-02-Fri 14:42 [EDIT]
カズーキター――――(°∀°)――――――!!


おっと、思わず興奮してしまいました、松山剛@閻魔ピギャースの人です。

カズーさんの気持ちわかるなあ~。私もよく自分の本のタイトルで検索かけます。たいていは書店ばかりですけど(笑)。
他の著者さんも来ないかなあ~(笑)
他の著者さんも来ないかなー
コメント一九 | URL | 2007-11-03-Sat 18:50 [EDIT]
文句言われないような文章を作らなければ。
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